肉はおいしい。時期限定とはいえ肉食を禁止してた古代の日本は「どうかしてた」と思う。肉についてじいっと考えると、豚バラ薄切り肉のおいしさのむこうに、可愛い豚の笑顔が浮かんできたりする。そして後ろめたい気分に陥ってしまう。そういう気分にさせられるのは、長く肉食を忌避してきたことの悪影響なのだろうか。いや、それは関係ないだろう。……などということを、この本を読みながら考える。
動物を神に捧げる、という儀式がある。世界中にある。でも、日本には「ほとんどない」ことになっていた。肉食をしない時代に、そんな、食べもしないモノを神様に捧げないという建前で、「ない」ことになっていたにすぎず、実際は多くの事例がある、ということが食の歴史の研究者によって書かれている。
その動物供犠の有り様を本書で知る。肉食文化があった沖縄では、今も動物を用いた祭祀があり、写真入りで多数紹介されている。「屠った動物の骨肉片を左縄(左縒りの縄)に挟んで、集落の入口に頭上3~5メートルの高さに、道を遮るように張り渡す」のは除厄儀礼のシマクサラシ。浜に置かれた漁船に「屠殺したウシの左前足が、蹄を村の方へ向けた形で、ヤブニッケイの枝葉とともに捧げられる」のは招福儀礼のハマエーグトゥ。すごく意味ありげだ。ウシの左前足がのっかって、榊っぽい葉っぱが一緒に飾られた舟の舳先の写真を見ているだけで、「生き物のすごさ」「生き物を屠ることのすごさ」「その屠った生き物を食べることのすごさ」を感じてしまう。
沖縄だけでなく、日本中にある「動物を用いた祭祀」の痕跡も紹介していて、沖縄みたいな生々しいやつではなく、「動物を屠る」ことが形骸化したものが多い。学術的な内容の本ですが、神に肉を捧げた祭りのリストとして読むだけでも面白い。諏訪大社の、ズラリと並んだ三方にのった鹿の首、なんてぜったい見にいきたい。
※週刊朝日 2014年6月6日号