光文社新書の「飲食関係のラインナップ」には独特の味がある。京都の街歩きや、ファミレスの歴史、酒について語ったものなどが出ていて、そのどれもが、著者は違うし狙いも違うし雰囲気も違うのに、並べてみると似ているのだ。まず、文学臭さがない。ガイドブック的でもない。光文社新書の飲食本は、「単に飲み食いが好きな人が、だらだらと(といって悪ければ「たんたんと」)酒や食べ物や食堂のことを書いている」のが多いのだ。しかし、このゆるさのようなものが、読んでいる者の腹を鳴らさせる。
 今回ご紹介する本は、外国人による日本の居酒屋についての本。「外国人による日本文化鑑賞本」と思うが、そういう感じはない。著者も「本書をいわば『青い目』が書いた居酒屋文化論として、おもしろがって読んでいただくのは、著者の私にはあまりありがたく感じられない」と書いている。光文社新書らしく、だらだらと酒場を紹介している。そしてそれがいい。
 第一章が「『居酒屋学』の基礎概念」というから構えそうになるが、そんな必要はない。<赤提灯>について「居酒屋の一種。実際に赤提灯をぶら下げているかどうかは関係ない」としつつ、共通項として「値段も敷居も高くない」「個人経営であり、原則として店主が店にいる」などをあげる。赤提灯、焼き鳥、立ち飲み、そういうものについて、著者が「いいなあ」と思うことについて、微に入り細をうがち、書いてある。名店居酒屋の多くは、BGMもテレビもない、と観察する。そして騒ぎすぎる客に、意外に手厳しいとする。つまり、いい居酒屋は<貫禄>と<けじめ>があるのだ。著者の居酒屋の趣味ははっきりしている。
「居酒屋の描写」も頃合いがいい(居酒屋方面でスノッブな文章って、ほんとにゲンナリする)。良さそうな店が次々に出てきて、その店の酒と食べ物が、ものすごく美味しそうでは「ない」のがいい。適度である。居酒屋なんてこんなもんでいいんですよ。

週刊朝日 2014年5月30日号

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