温泉街の片隅にたたずむ秘宝館の放つ妖しさはどこからくるものなのか。有名人の等身大の蝋人形や男性器を神格化したオブジェが展示される一方、医学模型が並ぶ。時には、動物の交尾の実演ショーも開催される。本書では社会の変化を踏まえながら、性をテーマにした観光装置である秘宝館の盛衰に迫る。
秘宝館の歴史は意外にも新しい。最も古い「元祖国際秘宝館伊勢館」でさえ誕生は70年代。バスによる団体旅行の普及を見込んでつくられ、その後、温泉地という特定空間に限られた時代に発生したという。
興味深いのは性に関する遊興空間でありながらも、医学模型や道祖神などの展示を免罪符にして観光装置としての存在を正当化させた点。道徳性、宗教性が卑猥さを中和し、猥雑で不思議な空間を醸成したのである。
ただ、車の保有台数が増えるにつれバス団体旅行が下火になり入場者数は減少。かつて全国で20を超えたが現在は熱海と鬼怒川の2カ所を残すだけ。世界にも例をみないワンダーランドがこのまま消えてしまうのは惜しい。
※週刊朝日 2014年5月23日号