戦犯の子孫というと、いまだに軍国主義を金科玉条として父祖を誇りに思ってるんではないか、という思い込みがある。何かの本で読んだ戦犯の奥さん(子孫ではないが)がそんなタイプだったからだが、考えてみれば戦犯にいろいろな人がいるように、子孫にもいろいろな人がいて当然である。この本を読むまでは、そんな当然のことも気がつかないでいた。
 4人のA級戦犯の孫が取り上げられている。東条英機、土肥原賢二、広田弘毅、東郷茂徳。のっけに出てくる東条英機の孫娘にあたる東条由布子の軌跡を読むと暗い気分になる。小学生のときは、戦犯の孫ということで、いじめっ子から「東条絞首刑!」と叫ばれ、長じて生命保険会社に就職し、ふたたび学問を志して、名曲喫茶店などでアルバイトをしながら大学に行く。しかし父(東条英機の長男)の死にあい大学をやめ、東条英機を主人公とした映画「プライド 運命の瞬間」をきっかけにして、「東条」はもはやタブーではなくなったと感じ、積極的に社会活動をするようになる。
 祖父がA級戦犯で死刑になったことを除けば、彼女の人生は特別なわけではなく、むしろありふれたといってもいい人生だ。だが、そのありふれた人生の彼女が、「一九五八年をもって戦犯の名誉は回復され、日本の国内法では戦犯なる者はいない」と主張するようになる。いわば中年以降に「目覚めた」わけだが、夫とはまるで思想が違っていて、しかし夫婦仲は変わらなかったというのが、かえって「リアルだなあ」と思わされた。東条由布子は、こちらが思ったような「戦犯の孫」の生き方をしているのだが、他の孫たちも、戦犯である祖父に対してそれぞれ微妙な気持ちをもっている。
 この本は戦犯の孫だけではなく、「無名の戦犯たち」(BC級戦犯たち)についても書かれている。この無名戦犯たちの話は、「戦犯という存在の生々しさ」がモロに見えて、孫話にはない面白さがあった。

週刊朝日 2014年4月25日号