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 24年前、近所の商店で柴犬の雑種が5頭生まれた。器量のよくない1頭を可哀想に思った家内が引き取った。小学生の息子が好きだった女の子と同じ「あき」という名前が付いた。
 その5年後、公園での犬の里親探しで運命の出会いがあった。真っ白な毛に覆われたつぶらな瞳の子犬を思わず抱き上げた。うちにいるあきのことが一瞬頭をよぎったものの、口は飼いますと宣言。彼女には作曲家シューマンの愛妻クララの名前を付けた。
 2頭はそれぞれ17年の生涯を全うした。クララの目も脚も弱った一昨年、これでペットとの生活も終わりだなと覚悟した。
 犬は愛情を注げばしっかり忠誠心で返してくれるし、癒やしの天才だ。にはいい印象がなかった。懐かない、気まま、家出……。
 だが、クララが弱ったその秋、車の前に1匹の子猫が飛び出した。轢いたと思ったが、車輪の間で身をすくめていた。子猫といえどノラなら激しく抵抗するはずなのに、そっと手を伸ばすとおとなしく捕まった。
 うちには余命少ない犬がいる、保健所行きだなと思いながらも、おとなしく捕まった雄の子猫に因縁めいたものを感じたのも確かだ。
 作曲家ラロの名前をもらったその子猫は、3日3晩鳴き通したが、やがてクララの懐で寝るようになった(写真)。クララも子猫を可愛がるようなしぐさをする。わずか2カ月の触れ合いだったが、ラロはクララに親子のように付きまとった。まるで命の引き継ぎをするように。
 成長したラロは、みかんなど普通は猫が嫌う柑橘類が大好きだ。ウンチの時にはミャーミャーとわざわざ通告しに来る。全く変わっている。きっと飼い主に似たのだろう。
 ペットとの暮らしは当分終わりそうにない。

(森隆政さん 栃木県/62歳/無職)

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