福島に生まれ、福島に生きる詩人が10年にわたって書き継いだ150篇のエッセイ集。家族や友人、町の人々のことに加え、光と風の輝く自然豊かな故郷の風景が織り交ざる。
冒頭の数篇には、東日本大震災以降の、清々しい風土の喪失が綴られる。「時には田舎の物足りなさを感じながら、しかし何かを引き換えにしたとしても、水と風の自然を私たちは選んできた」。そして昔ながらの風景との生理的な交歓を静かに語る。「太陽っつうのはな、きのこの化け物なんだぞ。(中略)山さ行ってみろ。いっぱい、きのこ、転がってっから」と昔、近所のおじさんから教わったこと。外の雲がそよと動くのを見て、亡くなった祖母が話しかけてきたように思ったこと。和合家の昔からの習わしとして、親戚12軒に年始回りの挨拶をするときの心得なども、過去の平和の象徴のように紹介される。
震災直後に推敲なしでほとばしるように書かれた『詩の礫』とは打って変わり、選び抜かれた言葉は穏やかさに満ちている。あたりまえの生活にしずくのように落ちる光を感じ、読了後の世界は幸せを増す。
※週刊朝日 2014年2月14日号