クリスマス~年末商戦アイテムを揃えるのに目が回りそうなほど忙しい今日この頃。追い討ちをかけるかのように、ビートルズ『オン・エア~ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』の入荷日が迫っている(11/10時点)こともあり、社員総出でそのオンライン・オリジナル特典用のポスター巻きを命ぜられる。先週はたしかワン・ダイレクション、その前は何とかっていう韓流アイドルだったかな。毎度おなじみのことだが、こいつが結構ツラい。体力的にではなく、精神的に“くる”。少しでもお客さんに振り向いてもらおう(≒売り上げをとろう)と躍起になる市場がたどり着いたひとつの結論が、こうした特典物の付与(ポスターほか、ポストカード、卓上カレンダー、クリアファイル、メモパッド、ステッカー、缶バッヂなどが現在の主流だろう)という施策ではあるが、最近は激化を通り越して、「競合各社による戦争」と呼ぶにふさわしい“荒れた”状況に突入しているような気がする。
何と言うか、作品内容をおざなりにして、盲目的に「オマケを付ければ売れるじゃん」といった風潮が露骨になっているのは、はたしてモノが売れない時代のせいなのか…いやでも、野球チップスやビックリマン・チョコと同じで、オマケが付けば誰だってうれしいはずだ…とはいえ、これはオマケありきで売れているんじゃないだろうか!? …と、こんな釈然としない思いに支配されながらせっせとポスターを巻く。これが精神的にじわじわくる。二週も続けば無視し得ないストレスだ。しかも、予約受注が入れば入るほどウハウハではあるが、ポスター巻きに駆り出される時間もその分多くなるわけで、そうなると自分の管轄仕事に着手できないという二律背反も生まれるのだ。
内部告発と呼べば多少かっこいいものの、ほとんどもう愚痴でしかない心情をいきなり吐露してしまったが、前述ビートルズのポスターを巻きながらふと思ったことがある。「はて、ローリング・ストーンズのハイドパークDVDにはなぜ特典ポスターが付かなかったのか?」「会社的に注力に値しないアイテムだったのか?」「いつまで経ってもビートルズとはあらゆる面で格差が生じているのか?」と。う~ん、やはりこれは納得がいかん! ストーンズ・ファンの端くれであるぼくの中に、この二週間ほど前にリリースされた彼らの最新プロダクツ『“スウィート・サマー・サン” ストーンズ・ライヴ・イン・ロンドン・ハイド・パーク 2013』を引き合いに出すことによって、ほとんど嫉妬、ほとんど因縁ともいえる憤りの念がフツフツと湧き上がってしまったのだ。ちなみに、シューゲイザー好きの二回り近く年の離れたロック担当に抗議をするも、「ミック・ジャガーって、昔デヴィッド・ボウイとほんとに寝たんすか?」とまともに取り合ってくれなかったことは言うまでもない。
そりゃまあ、ポール・マッカートニーの新作~来日も含めれば、ファンならずとも(仮にビートルズの「ビ」の字しか知らない人たちにとっても)、この『ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』は何となくお祭りムードを共有できる“のっかりやすい”アイテムかもしれないでしょうよ。≪イエスタデイ≫しか生涯口ずさめない人でも、十分に満足感を得ることができるアイテムでしょうよ。なんてたって天下のビートルズだもの。11月11日、「1」並びの日に全世界同時発売だなんて、レベルが違いまさぁ。やることがイチイチ鼻につく(笑)。ただ、これは決して悪口ではない。ビートルズ・ブランドは今も強い、という褒め言葉にすぎないのだ。「古いロックはよく分かんないけど、ビートルズだったら持っててもいいか」「とりあえずビートルズでしょ」。この感じを抱かせる“旧態”のロックバンドというのは、今現在ぼくが知るかぎり、彼らビートルズしかいないと思っている。「とりあえずストーンズでしょ」なんて言葉、お茶の間で耳にしたことなどハッキリ言って皆無だ。プロの現場レベルにおいても、他ジャンルのミュージシャンのカヴァーはビートルズが圧倒的に多いし。悔しいなぁとは思いつつも、それが現実なのである。唇をデザインしたあのリップス&タン・マークは知ってても、ミック・ジャガー以外のメンバーの名前なんかきっとイマの若いコたちは知らないんだろうなぁ。ストーンズは2013年の日本において、ぼくらが思っている以上にマニアックな存在なのかもしれない。
しかしストーンズにだってBBC(英国放送協会)音源はたんまりある。ビートルズの88曲という全録音曲数に比べればやや劣るが、たしか50曲ぐらいはあったはずだ。ビートルズ同様、若き日のストーンズがブルースやリズム・アンド・ブルースのカヴァーに励みながら、バンドとしてのオリジナリティを着実にモノにしていく、いわば彼らの最初の成長期にあたる重要音源なのである。が、まとまった形で公式リリースされたことは一度もない。昨年リリースされた結成50周年ベスト『GRRR! ~グレイテスト・ヒッツ 1962-2012』、そのスーパー・デラックス・エディションのボーナスEP(なぜEPだ!?)にのみ「ルート66」、「コップス・アンド・ロバーズ」など4曲が、半ば人目を忍ぶかのように収録されただけで、ほぼ全ソース、半世紀ものあいだ陽の目を見ずにいる。ザ・フーやキンクスのBBC音源集が次々に蔵出しされているご時勢にもかかわらずだ。蔵出し音源に関しては、アーティスト本人の意向が大きく加味されることもあって、簡単にはそのリリース状況に野次入れすることはできないのだが、それにしてもファンの間では長らく待望されている音源なのだからそろそろねぇ…というのがホンネのところでもある。
と、ぼくの脳内では、肩入れすべきストーンズがビートルズにコテンパにやられている。これはもう何十年も続いている両者の戦いの構図だ。つまりその手の論書に記してあるほど、今も昔も対等という意味合いでのライバル関係は成立していない、というのがぼくの見解。要所要所でのビートルズ・ブランドへの無条件降伏は、60年代にストーンズ本人たちが歩んだ道のりそのものだったのかもしれない、といういらぬ岡目八目さえも。
しかしストーンズは現役。もはやバリバリのチャンプではないかもしれないが、しかし彼らは、しわくちゃになろうとも矢面に立って転がり続けることに拘泥し、そこに芸能の神髄を捉えようとする、つまりはそれ以上でもそれ以下でもない芸人~エンターテイナーの鑑なのである。また、レコード芸術の分野においても彼らの異様なまでの“向日性”ぶりというものは顕著。だからして、『メイン・ストリートのならず者』や『女たち』などのデラックス・エディション蔵出し楽曲にも、容赦なくブラッシュアップを加える。
古いマテリアルをそのまま世に出すことをよしとしない彼らの気質。これは、今回の『“スウィート・サマー・サン” ストーンズ・ライヴ・イン・ロンドン・ハイド・パーク 2013』でも際立ち、44年前のハイドパーク・フリーコンサートの思い出にしがみついている多くのファン(ぼくも含めて)を大きく裏切る≪スタート・ミー・アップ≫でのキックオフがことさらそれを饒舌に物語っていると言えるだろう。≪エモーショナル・レスキュー≫と新曲≪ドゥーム・アンド・グルーム≫は個人的なハイライト。これが現役芸人の底力であり誠心誠意のおもてなしである。BBC音源なんか待望している場合じゃない。「お前さんたち、肉体をもたないビートルズやブライアン・ジョーンズにいつまで振り回されているんだ」といわんばかりの皮肉めいた笑みを浮かべながら、ミックがキースがロニーがステージ狭しと動き回る。“美”を失ったミック・テイラーの登場ですら新鮮だ。
ビートルズほど強固なブランド力はなくとも、生命力一本でケモノ道を歩いてきた無事コレ名馬のストーンズが、その長寿の秘訣を元気に歌って踊って教え説いてくれるということで、健康志向高まる現代のトレンドにも完全フィットしていると言えるだろう。
だいぶとっ散らかった感もあるが、『“スウィート・サマー・サン” ストーンズ・ライヴ・イン・ロンドン・ハイド・パーク 2013』 映像本編を肴にした話の続きはまた次回に。[次回11/27(水)更新予定]