『Portrait in Jazz』ビル・エヴァンス
『Portrait in Jazz』ビル・エヴァンス

 ベテラン編の3回目は「狙い」です。ミュージシャンの音楽的狙いを聴き取ること。と言うと、だいたいにおいて誤解されちゃうのですが、「狙い」と言っても「世界平和を表現している」とか、「人権問題に対する抗議」といったたぐいのことではありません。あ、もちろんそうしたことがらを音楽の目的としているミュージシャンだっておいでになると思いますが、私たちが大好きなジャズマンの大多数は、あんまり「思想的」な方向に向かっているようには思えません。

 チャールス・ミンガスはどうだ、コルトレーンやマックス・ローチだっているじゃないか、と目をむくあなた、冷静になりましょう。彼らの名前が取りざたされるということ自体、そうした発想を持ったミュージシャンは少数派ということなんじゃないでしょうか?

 そもそも音楽は「平和」とか「人権」といった込み入った事情を説明するには向いていないジャンルです。そうしたことには「ことば」の方が手っ取り早い。

 では私の言う音楽的狙いとはなにか。これはもしかしたら「傾向」あるいは「聴き所」と置き換えてもいいかもしれません。たとえば、オスカー・ピーターソンの演奏を「内省的でない」と批判してみたり、ビル・エヴァンスに対して「ファンキーな味わいに欠ける」と言われても、「ちょっとなあ」としか言いようがありません。

 しかしそれは、ベテラン・マニアはある程度ジャズマンの音楽的狙い、傾向を知っているから思うことで、何の先入観も無い入門ファンはありとあらゆる要求をミュージシャンに出しがちです。ミュージシャンはデパートではないのですから、何でもかんでもあると思ってもらっては困るのです。というか、むしろ大多数のジャズマンはガンコな個人商店主のように、ひとりひとりがこだわりの逸品を売っているのです。

 ですから、賢いファンはそれぞれお好みの「お店」をご贔屓とすべきなのです。そしてそれには、そのお店の「狙い」「傾向」をキチンと知っておく必要がありますよね。ピーターソン商店の売り物の第一は、ノリの良いスイング感とあくまで陽気なピーターソン節で、エヴァンス商会の逸品は、内に強靭な意志を秘めたリリシズムでしょう。

 ところで最初の設問に戻って、「では、どうしたら狙いを聴き取ることが出来るようになるのか?」という問題を考えて見ましょうか。これ、けっこう簡単な話で、要するに「先入観抜きで同じミュージシャンのアルバムをたくさん聴いてみる」ことに尽きるのです。「ちょっとタイヘン」ですって。まあ、そうですよね。でも、ご安心を、そのために多くのガイドブックがあるのです。

 優れたガイドブックは、必ずそれぞれのミュージシャンなりアルバムの「狙い」「傾向」についてわかりやすいことばで解説してあるはずです。このことを裏返すと、いくらアルバムの成立過程や背景を詳しく説明していても、その演奏の「狙い」「傾向」、そしてそれらを集約した「聴き所」について具体的な記述が無いようなものは、あまり入門ファンの役には立たないという事です。[次回11月18日(月)更新予定]

■ご参考
ビル・エヴァンス [ジャズ名盤の聴き方]
ジョン・コルトレーン [ジャズ名盤の聴き方]
チャールス・ミンガス [ジャズ名盤の聴き方]