『エルドラド』ニール・ヤング
『エルドラド』ニール・ヤング
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『フリーダム』ニール・ヤング
『フリーダム』ニール・ヤング

 1980年代最後の年が明けるとすぐ、ニールは、チャド・クロムウェル、リック・ロサスの二人と小規模なUSツアーを行ない、ここで《ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド》をデビューさせている。4月には、チャド/リックにベン・キースとポンチョも加わったザ・ロスト・ドッグスを従えて、豪州で12回ステージに立ち、そこでは毎日「ロッキン~」を歌った。その直後に実現した二度目の来日公演(横浜、東京、大阪、名古屋、計6回)でも彼は、やがて永遠のロック・アンセムとなる曲を、連日、歌っている。まだ録音作品としては誰も聴いていなかったわけだが、記憶が正しければ、僕が観た4月29日のNHKホールではアコースティックとエレクトリックの両ヴァージョンを聞かせてくれた。未知の曲にぐいぐいと引き込まれていくあの感覚は、今も忘れられずにいる。

 チャド/リックと録音した『エルドラード』が豪日地区限定でリリースされたのは、4月半ば。つまり、来日公演直前のことだ。5曲入りの、いわゆるEPであり、アルバムとしての体は成していないが、新たなディケイドの幕開けを予感させるのには充分な内容だった。

 それからわずか半年後の10月には、『エルドラード』からの3曲も収めたフル・アルバム『フリーダム』がリリースされている。オープニングは《ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド》のアコースティック・ヴァージョン、最後はエレクトリック・ヴァージョンという構成は、あの『ラスト・ネヴァー・スリープス』とつながるもの。ハードにギターを弾きまくる曲から、コーラスを生かした美しいバラッドまで、どの曲も、彼自身が納得したうえで、古くからのファンを満足させるものだった。そして、90年代以降のロック・フリークたちをも巻き込む力を持つものだった。

 《ロッキン~》のアコースティック・ヴァージョンは、日本公演後のUSソロ・ツアーから、6月14日、ロング・アイランドのジョーンズ・ビーチ・アリーナで録音されたもの。この時期、ニールは、人民帽をかぶってステージに立ち、「オハイオ」も歌っている。いうまでもなくそれは、天安門で闘う若者たちへのシンパシーの表明だった。[次回10/15(火)更新予定]

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