写真:Junichi Takahashi
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 初夏の山形は、さくらんぼづくしだ。全国生産の7割以上を占めるだけあって、どこを訪ねてもお盆いっぱいのさくらんぼでもてなされるし、食事のデザートにもさくらんぼが出てくる。正直に言うと、僕は今までさくらんぼをあまりおいしいと思うことがなかった。一箱数千円という高価なものを食べても、そのありがたみがいまひとつわからなかった。だが、その認識が寒河江市の〝名人〟軽部賢一さんのさくらんぼを食べて一気に変わった。

 「有名な佐藤錦は6月が最盛期で、7月に収獲されるのは紅秀峰(べにしゅうほう)という品種になります。実が大きく果肉がしっかりとしていて、甘みがあって酸味が少ない。佐藤錦より日持ちもします。好みにもよりますが、私は佐藤錦よりおいしいと思いますし、プロとしても作りがいのある品種です」

 そういって、木からもいだばかりのさくらんぼを差し出してくれる。赤く艶と張りがあり大きな実は、確かに食べごたえがあり、甘みも強い。糖度は25度近くあるそうで、桃やメロンにも負けない甘さだ。これほどおいしいさくらんぼは食べたことがない。

 「管理している木は350本くらいあります。おいしいさくらんぼを作るのに大切なことは、冬から春先にかけての剪定作業と収穫前の日当たり。まんべんなく日光が当たると実が赤くなります。ただ日を当てるために葉を取りすぎてはダメ。葉がないと実にも栄養がいきません。だから、葉を取らずに日が当たるよう、枝ぶりから考える必要があります」

 軽部さんはさくらんぼ農家の3代目。祖父の時代は、ナポレオンという加工用のさくらんぼを作っていたそうだが、30年ほど前から生食用が主流となり、経営的にも安定したそうだ。さくらんぼ名人として山形では知らない人がいないというほどの有名人で、軽部さんの栽培方法を手本にしている農家は、県内だけでなく全国にいるそう。
 
 「木の寿命は30~40年。ちょうど人間の倍くらいのスピードで成長します。一人前になるのに10年。人間でいえば成人から40歳くらいにあたる10~20年目くらいが働き盛り。350本の木や枝、それぞれに性格があって、育て方も微妙に違います。かあちゃんの顔はたまに忘れそうになるけど(笑)、さくらんぼの木の一本一本を忘れることはありませんよ」

 さくらんぼの大敵は雨。ちょうど梅雨の時期に実がなるのだが、雨粒ひとつで実が破裂し腐ったり、色が安定しなかったりする。

 「最近は露地栽培でも雨よけのテントをつけるようになりましたが、それまでは雨との闘いでした。雨が降る前に収獲できればいいけど、雨にたたられると全滅もありうる。ギャンブルみたいな作物だと言われていました」
 軽部さんのさくらんぼは、1キロ5千円以上で販売される。箱入りで高値で売られているさくらんぼを見て、「高い」と思っていたが、土造りから剪定作業、雨よけテントなどの作業の話を聞いたら、そう思わなくなっていた。

 「6月から7月にかけての1カ月は、家族総出で朝5時から夜遅くまで収獲と選果、出荷の作業が続きます。大変だといわれれば大変ですが、このひと月で1年分を稼ぐわけですからね」

 ゴールデンウイークあたりには、花が満開になって美しいそうだ。普通の桜に比べて花が白く、畑中が真っ白に染まるという。果実が楽しみなのはもちろん、その満開の白い花も見てみたいと思った。そして、この紅秀峰、みんなにも是非食べてみてもらいたい!!