日米地位協定についてはなんとなく知っているつもりでいた。米軍関係者の犯罪を日本で裁くことはできないっていう取り決めのこと? くらいのゆる~い理解の仕方で。
いやいやいや、それもあるけど、それだけじゃないんです。原発の再稼働問題も、不況下での大増税も、オスプレイの配備も、TPPの交渉参加問題も、検察の調書の捏造も、つまり日本でいま起きている多くの理不尽な現象の源流は日米地位協定にあるんです。そう主張するのが前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』である。
本書によれば、日米地位協定とは〈アメリカが占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるためのとり決め〉のこと。1952年に日本が独立した後も〈実質的には軍事占領状態が継続した〉。日本がアメリカにこれほど従属的なのは〈条約や協定をはじめとする法的な枠組みによって、がんじがらめにしばられているからなのです〉。こうして対米従属の起源であるサンフランシスコ講和条約や米軍の違憲性をめぐる判断を裁判所が放棄した砂川事件に遡り、あるいは沖縄の米軍ヘリ墜落事件その他を参照しながら、日米地位協定が日本国憲法の上位にある(!)ことを本書は論証していくのである。
米軍基地をめぐってアメリカの指示に従い続けているうちに〈「アメリカの意向」をバックにした日本の官僚たちまでもが、国内法のコントロールを受けない存在になってしまいます〉。それが最大の問題なのだ、と。
むろん異論がある人もいるだろう。が、歴史的に見て〈米軍が駐留する日本は、アメリカの被占領地か、植民地ということになります〉という説は説得力大。日本は〈世界で唯一の国なんじゃないかと思えるほど異常な国の姿なのです〉。
孫崎享『戦後史の正体』で話題になった「戦後再発見」双書の第2弾。編著者の前泊さんは元琉球新報の記者である。版元の創元社は大阪の会社。腰抜けな東京の出版社に挑戦状を突きつけているようにも見える。
週刊朝日 2013年4月12日号