今や国民病といわれる糖尿病は、ほんの100年前までは死に至る不治の病だった。インスリンを発見した科学者たちの苦闘と、最初にインスリン注射を受けた患者の一人、エリザベスの壮絶な闘病の物語を、実話を基に描く。
エリザベスは11歳で若年性糖尿病を発症、当時の治療は極限まで食事を減らす飢餓療法のみ。14歳の時には体重22キロ、骨と皮ばかりになっていた。あまりの凄惨さに糖尿病の本当の恐ろしさを思い知らされる。
本書で印象的なのは、偉大な発見の過程より薬を治療現場に届けるシステム作りの難しさだ。製造・供給体制など実際的な問題に注力する製薬会社に対し、研究者は営利優先の産業界を蔑視、協力を拒んだ。劇的な回復をもたらす物質を発見しながら、協力関係が作れぬゆえに患者の命が失われ続けた現実に愕然。
清廉な政治家で知られたエリザベスの父・ヒューズ、情に厚いが功績を横取りされるのを恐れて、同僚を激しく攻撃したインスリン発見者のバンティング。個性あふれる登場人物の苦悩や葛藤も鮮やかに写し取って、厚みのある物語を作り上げている。
週刊朝日 2013年3月22日号