というのも、安倍派には、明確な「次の総理」がいない。松野博一官房長官、萩生田光一経済産業相、世耕弘成党参院幹事長、下村博文前政調会長、西村康稔前経済再生相、福田達夫総務会長、安倍氏の実弟岸信夫防衛相。「安倍一強」と言われた時代とは打って変わり、「群雄割拠」の状態だ。

 同派では、安倍元首相の死亡後、幹部が集まり、「一致結束しよう」と呼びかけたといい、12日に民放のテレビ番組で下村氏は、

「安倍元首相は政治的キーパーソン。参院選では岸田首相に匹敵するほどの遊説でした。この20年、麻生太郎氏以外は総理大臣のすべてが安倍派。会長を誰にするかというのはあるが、まずはまとまっていこうという話になっている」

 と話した。

 だが、次の総裁選で分裂する可能性があるとの見方を述べる政治評論家も少なくない。

 安倍派のある衆院議員は、

「安倍会長に代わる人は、昭恵夫人以外にはいません。山口4区の地元でもそうだと聞きます。昭恵夫人は、安倍会長と同様にカリスマ性があるし、トップの器です。補欠選挙となろうが、そうでなかろうが昭恵夫人にご決断をお願いしたい。当面は集団指導体制でと聞いていますが、安倍会長の重し、昭恵夫人の影響力がないと、いずれ安倍派は二つ、三つに割れてしまうと思います」

 と話すなど、永田町でも昭恵さん待望論が聞かれる。

シンポジウムであいさつする安倍昭恵さん=2019年6月29日、代表撮影
シンポジウムであいさつする安倍昭恵さん=2019年6月29日、代表撮影

 しかし、森友学園問題では、小学校の名誉校長への就任を承諾していたという昭恵さん。安倍元首相の後継として政界に打って出ると、選挙では圧勝と見られるが、「負の遺産」も背負い、野党からは徹底追及されることも覚悟しなければならない。

 前出の自民幹部はこう話す。

「最大派閥、安倍派は安倍さんだから維持できた。岸田首相もこれまで安倍さんとさえ話ができていればよかった。その構図が変わるので、岸田首相も難しい状況だ」

 参院選で盤石の態勢を築いた岸田政権をも揺るがしかねない、安倍元首相の後継問題。簡単には決まりそうにない。

(AERA dot.編集部・今西憲之、上田耕司)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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