ヴィエンチャンを発車した列車は、ヴァンビエンまで進み、そこからルアンパバーンまではトンネルがつづく。山がちなラオスという国。難工事だったことがわかる。かつてバスが走った道は、谷に沿った悪路だった。そこをトンネルで抜けてしまう。列車のスピードは早くないが、所要時間は大幅に短縮される。
総工費は6800億円といわれる。7割を中国、3割をラオスが負担した。が、ラオス負担分の半分以上は中国系金融機関からの借り入れだという。人口710万人ほどのアジアの小国には大きな負担だ。ラオスの危うい綱渡りに「債務の罠」の警鐘が鳴る。
ルアンパバーンで泊まったゲストハウスの女性オーナーのノイさん(42)はこう言う。
「中国人は嫌い。我が物顔でやってきて、いつも威張っている。ラオスのスタイルを無視して中国式にしていく。ラオスは中国の属国のようになるっていう人もいる。私も政府のやり方に全面的に賛成しているわけじゃない。でも、コロナ禍でうちも2年近く宿を閉めていた。鉄道が開通して、ラオスの人たちがやってくるようになってやっと扉を開けました。ナイトマーケットも再開。鉄道のお陰。私たちも生きていかなくちゃいけない。中国の毒を飲んでもね」
しかしラオス国内の旅客など中国はあてにしていないというアナリストもいる。
「狙いはタイ、マレーシア、シンガポールへの物流。貨物です。ラオスは貧しく、人口も少ないから期待はしていない。ただ列車が通過するだけ」
中国の一帯一路のスケールとラオスの経済力は違いすぎる? 硬座車両に喜々とした面もちで座るラオス人……。ちょっと切ない。
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。