芸歴32年、いま、お茶の間の記憶に残る男として、TV出演急増中の芸人・チャンス大城(本名:大城文章)さん。そんなチャンス大城さんが自らの半生を赤裸々に語り下ろした『僕の心臓は右にある』から、上京したての頃バイトしていたコンビニでの「美しいひと」とのエピソードを、本文から抜粋、編集して紹介します。
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■美しい人のこと
尼崎から東京に出るとき、東京に住んでいた唯一の知り合いは、NSC13期の同期生だった俳優の三浦誠己君でした。実を言えば、三浦君が東中野に住んでいたから、僕も東中野にアパートを借りることにしたのです。そして、三浦君の紹介で東中野のセブン・イレブンでアルバイトを始めたのでした。
なにしろ事務所も決まっていないし、完璧に無名でしたから、芸人としての仕事が入るはずもありません。とりあえずはバイトをして、当座の生活費を稼ぐしかありません。
コンビニでバイトを始めてしばらくたったとき、夜中の3時ごろに、若いお姉さんがタバコを買いに来るようになりました。あごにホクロのある、とても派手なかっこをした美しい人です。いつも鼻歌を歌いながら店に入ってきては、必ずハイライトを買って帰るのです。
僕はそのお姉さんのことを、とても好きになってしまいました。ほとんど、ひと目惚れでした。そして、そのことをシフト・リーダーに告白したのです。
「実は僕、好きになってしまった女性がいるんです。片想いです」
「ああ、あの派手なお姉さんね」
なんとかしてお姉さんと会話がしたいと思った僕は、ある作戦を実行しました。
お姉さんが鼻歌を歌いながらカウンターに接近してきた瞬間に、黙ってハイライトを差し出したのです。
作戦は成功でした。
「私の銘柄、覚えてくれているんですね」
「もちろんです!」
普通ならアブナイやつだと思うところでしょうが、お姉さんは僕の名札をちらっと見ると、こう言いました。