笑いの基本は「ボケ」と「ツッコミ」である。テレビバラエティの世界ではこれらがちょうど半々の割合で存在しているかというと、決してそんなことはない。どちらかと言うとツッコミの方が多いのではないかと思われる。
なぜなら、たとえば芸人の司会者と芸人以外(アイドル、役者など)のゲストが会話をする場合、芸人じゃない側が発する何気ない言葉に対して、芸人が気の利いたツッコミを入れて笑いを起こすということがよくあるからだ。
つまり、相手がはっきりしたボケを言っていなくても、その話を受ける側の芸人の腕次第で笑いに持っていけるのだ。ボケに対してツッコむのではなく、ツッコむことでツッコまれる側の発言をボケとして「立たせる」ことができるのだ。
このように、ツッコミは一種のコミュニケーションの手段であり、使い勝手がいいので、バラエティの世界では一般的に見受けられる。しかし、ボケはそうではない。
テレビで見られるボケのほとんどは「文脈に沿ったボケ」である。その場で話題になっていることに関連する気の利いたことを言ったり、相手の話を受けて返答をしたりする、というものだ。テレビで活躍する芸人は、当意即妙にその場に合ったボケをひねり出す高い技術を持っている。
一方、文脈に沿っていない唐突なボケというのはあまり見られない。そういうボケは相当うまくやらないと笑いに結びつかないし、場の空気を壊してしまうこともあるからだ。ボケを言うなら文脈に沿ったボケに限る、というのがバラエティの基本的なセオリーである。
しかし、近年、そのセオリーを覆すような芸人が続々と出てきている。その代表格が、昨年末の『M-1グランプリ』で決勝に進んだランジャタイと真空ジェシカである。ランジャタイの国崎和也と真空ジェシカの川北茂澄は、テレビでも流れに関係ないボケを連発する危険人物である。しかし、その芸風が面白がられて、むしろ仕事が増えているようなところがある。