20年4月下旬に橋本被告の逮捕が報じられたが、同社は事実関係の公表や説明をしなかった。サービスを利用する保護者に対しても事態の周知や経緯の説明はなく、不安と不信感を訴える保護者もいた。メディアにしばしば登場し、SNSで積極的に発信してきた著名な経営者でもある経沢香保子社長は一切表に出てこず、会見はおろか謝罪すらしないことに批判が噴出した。
6月には「キッズライン」を利用していた別の男性シッターが子どもへの性犯罪で逮捕されたが、それでも経沢社長はしばらくの期間、沈黙したままだった。
根本には、マッチングサイト運営側の立ち位置や負うべき責任の“緩さ”があった。
マッチングサイトでのベビーシッターサービスは、保護者とシッターが契約するという形になっており、サイト運営社は利用契約の当事者ではないとされていた。シッターと保護者に何らかのトラブルが生じた場合でも、マッチングサイトはあくまで「プラットフォーム」にすぎないとの解釈もあり、責任の所在が明確ではなかった。
事件を受け厚労省は、「運営社が保護者、保育者の双方から手数料等を取って収益をあげている」ことや、「同種のサービスが急速に普及しており健全な発展が必要」などの観点から21年3月にマッチングサイトの運用に関するガイドラインを見直した。
・登録前に原則、対面で面談を行う
・保護者、保育者双方からの相談窓口を設ける
・トラブルが生じた場合、個人情報に留意しつつホームページなどで情報を公開する
など、運営社に対し体制を整えるよう促した。
ただ、小児への性的嗜好を面談で見抜くのは不可能とする専門家の意見もあり、抜本的な抑止策となるかは心もとない。
さらなる対策として政府は、子供と接する職業に就く人には性犯罪歴がないことの証明書が必要な仕組みの導入を検討している。英国の「DBS」と呼ばれる制度がモデルで、わいせつ行為などをしたシッターをデータベースに登録し自治体や利用者が確認できる形だ。
社会に衝撃を与えた事件。古玉裁判長は「被害者の人数及び犯行の件数が際立って多いうえ、犯行態様も悪質」と指摘した。橋本被告が一審判決を受け入れ刑に服したとしても、被害者と家族の苦しみは終わらない。