繰り下げ受給による年金額の増額は70歳で42%、75歳で84%。65歳から受給を開始する場合と、70歳まで繰り下げた場合を比較すると、81歳で後者の受給総額が上回る。
つまり、81歳が「損益分岐点」となるのだ。
この増減率は19年、社会保障審議会年金部会で審議され、そこで使われたのが65歳の平均余命21.8年(男女平均)という値だった。
しかし、だ。
男女の死亡年齢は配偶関係によって大きく異なる。20年の人口動態統計を基に計算すると、有配偶の場合、死亡年齢の中央値は男性約82歳、女性約79歳。ところが、未婚の場合は男性約67歳、女性約82歳。未婚男性の死亡年齢中央値だけが大幅に低くなっていることがわかる。ちなみに妻と離別した男性も約73歳と、かなり低い。
「つまり、女性はどんな配偶関係であろうと基本的に長生きです。ところが男性の場合、配偶関係によって寿命に大きな違いがある。単純に言えば、男性は一人では生きていけない存在なんです」
荒川さんはこのような情報を参考にしたうえで年金の受給年齢を考えることはよいことだと言う。
「年金の話というのは、お金の保障の問題です。何歳まで生きられるか、ということをベースに考えなければならない。そこで、自分はどんな人間なのか、どういう生き方をしたいのか、お金と時間をどう使うのかを考えることによって、より充実した人生を送れると思います」
「孤独イコール悪」なのか
最近、どんな要因が寿命に悪影響を及ぼすのか、さまざまな研究結果が積み上がってきた。運動不足、過度な飲酒、喫煙――なかでももっとも悪影響があるのが「社会的孤立」だという。
東京都健康長寿医療センターによると、日常生活に問題のない健康な高齢者であっても、社会的な孤立と閉じこもり傾向が積み重なった人の6年後の死亡リスクはどちらにも該当しない人の2.2倍になるという。さらに社会的孤立が、すべての世代の健康に悪影響を及ぼすことも明らかにしている。
一方、荒川さんは「孤独イコール悪」とする一部の人々の主張には強い違和感を覚えるという。「孤独を感じることと、孤独に苦しむことはまったく違いますから」。