アマゾン薬局が米国と同様に「プライム会員は送料無料」といったサービスを打ち出せば、便利さだけでなく、安さに引かれる患者は多いだろう。
「薬剤師の24時間年中無休対応も患者さんにとっては大きなメリットです。でも、中小の薬局ではそのようなサービスはなかなか成り立たないでしょう」
薬局はコミュニティー
一方、熊谷さんは、薬剤師は患者に対して単に薬についての説明を行い、薬を渡すだけの存在ではない、と訴え、こう続ける。
「医師が発行した処方箋はすべてが正しいわけでありません」
どういうことか。
「薬剤師は医師とは異なる視点で薬を監査して、患者さんを守ります。例えば、薬の飲み合わせが悪い、体質に合わない、ということが実際に起こってくる。そこで薬剤師が処方箋の内容について医師に問い合わせる『疑義照会』を行う。もちろん、アマゾンにはそれができない、とは思いません。しかし、普段から患者さんと顔を合わせている関係であったほうがそれをやりやすいのは確かだと思います」
これまで、ららくま薬局は諏訪地域のコミュニティーの一角を担ってきた、という自負が熊谷さんにはある。
「私の薬局では新型コロナの抗原検査も行っていますが、市内にある会社の社長さんから『うちの従業員が心配だから、検査を受けさせてもらえないだろうか』と、相談を受けることもありました。薬剤師の仕事とは直接の関係はありませんが、薬局にはそういった存在意義が確実にあります。それはオンライン薬局ではなし得ないでしょう」
新型コロナ対策のワクチン接種では海外の製薬メーカーのワクチンが頼りだった。
「ワクチン接種ではこれら製薬メーカー本社のある一部の先進国が先行しました。しかし、国産ワクチンがない状況では、それを受け入れざるを得ませんでした。アマゾン薬局の参入について、否定はしません。しかし、処方薬の多くをアマゾンに頼るような状況が生じてしまうと、それがリスクになりかねないと思います。アマゾン薬局とは別の選択肢も選べるような環境を維持していくことが必要でしょう」
薬の購入は「命」に直結
近い将来、アマゾン薬局が浸透すれば、前述のようにリアル店舗型の調剤薬局は苦境に立たされるケースがあるだろう。もちろん、薬局の省力化や効率化は大切だが、その一方で、薬の購入は患者の命や健康に直結する。調剤薬局が減ったあと、アマゾン薬局の収益が予測を下まわり、撤退するような事態となれば「不便」ではすまない状況となる。薬局は地域のインフラであり、失われることの代償はあまりに大きいと知っておくべきだろう。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)