■理由3:実は、決して「ずるくない」
書名に「ずるい仕事術」とあるが、その内容はむしろ正統派なのも興味深いところだ。
特に多くの消耗ビジネスパーソンをときめかせるのは、本書の冒頭で語られている“女子マネージャーの手づくり弁当”エピソードだろう。
入社1年目でドラマのAD(アシスタント・ディレクター)をしていた佐久間氏。その仕事を「つまらないうえに激務」で、「だれにでもできる仕事」だと感じていたという。
ある日、佐久間さんは監督から、「サッカー部の女子マネージャーの手づくり弁当」の小道具を作るように指示される。面倒に感じたが、やるしかない。学生時代にバイトをしていた居酒屋の厨房を借りて、作ることにした。
だが、女子マネージャーの手づくり弁当なんて想像もつかない。あれこれ悩むうちに「おにぎりをボールに見立ててはどうか」とひらめき、サッカーボール型のおにぎりをつくることにした。
弁当が完成したのは早朝、ロケの2時間前だった。佐久間さんはこのときのエピソードについて、こう話している。
「工夫してサッカーボールの形にしたおにぎりとか入れるようにしたら、そのシーンがお弁当中心の脚本に変わったのを見て、『雑務だと思ってたのは俺だけかな』って気づいたんです。そんなことをやってたら『おもしろいADがいる』ってなって、仕事が少しずつ変わってきたんです」(「週刊朝日」2022年7月29日号)
どの仕事をしていても、雑務はつきものだ。そんなときに投げやりになるのではなく、工夫を重ねることで「自分にしかできない仕事」に変化させる。本書に記載された佐久間さんの仕事術はまっとうであり、読者をハッとさせるものばかりだ。「真面目に積み重ねていけば、必ずや成果が出る」と信じさせてくれるのも、支持される理由なのだろう。
執筆のきっかけになったのは、佐久間さんのSNSに寄せられた大量の「仕事の悩み相談」だった。
最初は一つひとつに返信していたものの、次第に答えきれなくなり、「自分の思っていることを体系立てて書けたら、悩めるビジネスパーソンの役に立てるのではないか」と考え、書籍の執筆を決意したという。
現場のビジネスパーソンのリアルな悩みをベースにして書かれた一冊だからこそ、本書は多くの読者に支持され、118冊の中から総合グランプリ&ビジネス実務部門賞に選出されたのだろう。
「佐久間の仕事が面白いからあの本を読んでみよう、と思ってもらえるように、今後も本業を一つひとつ頑張っていきたい」「若いビジネスパーソンはもちろん、中堅やベテラン、これから社会人になる人にもぜひ本書を手に取ってほしい」(佐久間さん)

(文・flier編集部)
※AERAオンライン限定記事