
――これは、テレビ東京を退社し、フリーランスのテレビプロデューサーとして活動する佐久間宣行さんの著書『佐久間宣行のずるい仕事術』の一節だ。
仕事で消耗せず、頭を使ってうまく立ち回る。そうした「ずるい仕事術」がビジネスパーソンに支持され、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」では、総合グランプリとビジネス実務部門賞を受賞した。
なぜ今、ビジネスパーソンに「ずるさ」が支持されるのか。同グランプリを主催する本の要約サービス「flier」編集部がその理由を分析した。
■理由1:「自分の名前」で活躍したい欲求
佐久間さんは、テレビプロデューサーとして「ゴッドタン」や「あちこちオードリー」といった人気番組を生み出してきた。パーソナリティを務めるラジオ番組「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」にも多くのファンがいる。プロデューサーというと裏方のイメージがあるが、佐久間さんはその域を超えている。
自分の名前で勝負できるのは、かつては有名人や経営者などといった一握りの人たちの特権だった。だが、SNSや動画配信サイトなどを使って情報発信できるようになった今、一般のビジネスパーソンも実力さえあれば自分の名前で活躍できる時代となっている。
こうした流れの中で、「テレビ東京の会社員」という枠を超え、個人として活躍するようになった佐久間さんに憧れる人が多くいるのは自然な成り行きだろう。
個の時代と言われて久しい今、自身の名前で華やかに活躍する佐久間氏が注目と尊敬を集めるのは当然の成り行きだろう。確かな実力を持つ個人にファンがつき、その名を冠したラジオ番組や書籍が人気を博すのも令和らしい。

■理由2:「仕事で消耗したくない」欲を刺激
さらに、若い世代を中心に、仕事で消耗したくない人が増えている現状もある。
マイナビキャリアリサーチLabの調査(2022年)では、2023年卒学生の就職観は「楽しく働きたい」が最多で37.6% 。もはや、心身ともに疲れ果てるまで働くことをよしとする時代ではないのだ。
『佐久間宣行のずるい仕事術』のページをめくると、こんな見出しが並ぶ。
- 「チャンス」のためにはイヤでも謝る
- コミュニケーションは「最短距離」より「平らな道」
- 「横柄な態度」はコストが高い
- 「身内」にこそ気を遣う
- 給料分働けば十分「プロ」
敵を作るより、味方を増やす。「もっと成果をあげなければ」と気負いすぎるのではなく、ときには休息する。本書の副題と帯にもある通り、「消耗せず」「誰とも戦わずに」仕事をし、結果を出すためのノウハウと考え方は、今の時代の空気にぴったり合ったのだろう。
佐久間さんは、自身のことを「納得できるまで行動に移せない性格」と分析する。新人時代は、先輩からの頭ごなしの指示をすんなり受け入れることができず、初動が遅くなって怒られることがよくあったという。それに言い返してしまい、また怒られる。その繰り返しだった。
先輩の言うことをただ聞くだけの人にはなりたくないし、自分のこだわりは絶対に譲りたくない。それでも認めてもらわなければならない。周囲と戦わずして、自分のやりたいことをやるには――。
そう考えてたどり着いた結論が「もっとずるくなろう」だった。
たかが仕事だ。仕事で消耗することも、会社にとって都合のいい兵隊になることもやめる。そう決めたという。