相手に好意を抱いたり「いい人」だと信じると、無意識のうちにそれを肯定するための都合のいい情報しか集めなくなり、反証する情報を排除してしまう「確証バイアス」と呼ばれる心理状態に陥りがちだ。勧誘員はこの状態に持ち込んでから、もうけ話を持ちかける。

 勧誘にたまに成功しても、このサービスや商品がすばらしいからだと恩に着せ、さらなる勧誘に走らされる。失敗すれば「お前の努力が足りないせいだ」と罵倒される。いつの間にか、もうちょっと頑張れば大もうけできるはずだ、という無限ループにはまり、中には本業を辞めてしまう人までいる。

 必死で頑張っても、いつまでももうけが出ないおかしさに気づいて組織を辞めようと考えたとする。だが、組織にどっぷり浸かってしまった人は、今度は仲間たちに嫌われ、見捨てられるという「恐怖」を突きつけられて逃げ道をふさがれる。しかも、すでに注ぎ込んだ金は戻ってこず、負債が残ることもある。

「カルト宗教と同じで、後戻りできなくなります。そうならないために、まずはマッチングアプリなどにマルチやカルト宗教の勧誘員がいると肝に銘じておくこと。そして、お金にかかわる話が出てきたら、その時点で関係を切るべきです」(西田教授)

 アムウェイは「社名や目的を告げずに勧誘した」などの違法行為によって処罰されたが、「ようやくか」というのが西田教授の率直な思いだ。

 昔から苦情や被害相談が続いており、ここ数年も、全国の消費生活センターにはアムウェイに関する苦情相談が毎年300件前後寄せられている。

「マルチ商法の人間が初対面の相手に正体を明かしたら、まず勧誘に失敗しますよね。商品説明についても、誇大広告に該当する事例を把握しています。マルチ商法で、かなりのもうけを出そうとするならば、そうした違法行為をしなければ成功しないのかも知れません。水面下での違法行為が見逃され続けていましたが、アムウェイへの取引停止命令で、多くのマルチ商法の業者が肝を冷やしたでしょう」

 現在、消費者契約法の改正に向けた動きが進んでいる。霊感商法などの契約取り消し期間は現状の5年から10年に延長され、取り消しの対象も、本人への不安をあおる行為だけが対象だったが、親族への行為も加わる方向だ。

 西田教授によると、旧統一教会の被害と同様に、マルチ商法もその家族までもが犠牲になっているケースが多いという。

「当事者が自分からマルチ商法の組織を抜け出すことは非常に難しい。親族が被害を訴え出て、当事者を救済できるようになることを強く望みます」

 マルチ商法の違法な勧誘や問題行為が横行する世の中は、変えなければならない。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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