「精神腫瘍科」という診療科をご存じだろうか。がん患者やその家族の心のケアを行う専門領域だ。1980 年代からがんの告知が広がるとともに心のケアのニーズが高まり、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)が誕生。がんの治療や緩和医療の現場で不可欠になっている。そんながん患者の心のケアに早くから携わり、がん医療を専門とする埼玉医科大学国際医療センターに全国初の「遺族外来」を立ち上げたのが、同センター精神腫瘍科診療部長の大西秀樹医師だ。好評発売中の週刊朝日ムック『医学部に入る2023』では、大西医師を取材した。
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がんになるというのは、人生を揺るがす一大事だ。医療が進歩し、治るケースは増えているものの、いまだ死を連想させる病気であることに変わりはない。大西秀樹医師は、がん患者の心の痛みを治療する「精神腫瘍科」が専門だ。
「以前はあまり注目されない分野でしたが、 今は医師の間にも心のケアの重要性が浸透しています」と、大西医師は言う。
治療の対象は、 患者本人と家族。家族も本人以上に苦しみを抱える「第二の患者」と考えているからだ。2007年には、がん患者が亡くなった後に家族から遺族となった人の心のケアをする全国初の「遺族外来」を立ち上げた。
■さまざまな診療科を経験 たどり着いた精神科
大西医師は、医療とは縁のないサラリーマン家庭で育った。父親がエンジニアだったことから、自身も工学部を志望していたという。医師への関心が生まれたのは、高校3年の夏だ。駅で障害のある子どもたちを見かけ、「この子たちの力になりたい」という思いが芽生えた。1浪ののち、横浜市立大学医学部に合格した。
「入学後、『この分野をやりたい』という強い希望はなかった」という大西医師。実習では、進路を視野に入れながらさまざまな診療科を経験。手術室の雰囲気が苦手で、外科系は早々に候補から外した。小児科がいいかなという思いもあったが、実習中に神経難病で亡くなった男の子が、解剖後に小さな服や靴下を着せられる姿に胸が締め付けられ、「自分は小児科医には向いていない」と諦めた。