勉強は、自走させることが大切だと思っていた。自ら勉強する姿勢を、受験を通して学んでほしい。そんな理想を思い描いていたが、自身が中学受験生だった頃とは、問題の難易度も量もまったく違う。ある塾の説明会で、「親御さんの受験生の頃と比較し、勉強量は3倍になったと思ってください」と言われたが、その言葉は決して誇張ではないと感じた。
「実際に受験勉強を始めると、とにかく物量が多いので、進捗管理とテキスト類の管理は絶対に親がやらないと回らないな、と感じました。幸い、息子との関係が良好なので、常に進捗管理はやっていこうと思っています」
平日は仕事が忙しいため、復習などのサポートは週末にまとめて行う。小学5年の息子を含め、3人の子どもがいるため妻も忙しく、妻には平日に問題の丸つけだけをお願いしている。
息子の中学受験への並走を、「趣味的に楽しんでやっている」と江口さんは言う。
「自分の経験からも、男の子は中学に入ると完全に親離れをする。目標に向かい、何か一緒に経験するのも、最後になるかもしれない。自分も勉強を教えるのが好きということもあり、楽しんで取り組んでいます」
中学受験に挑む父親たちとのネットを通しての交流も盛んで、オフラインの飲み会も定期的に開催している。妻からも「本当に楽しそうね」と言われている。
一方で、現在の中学受験システムに対し、葛藤がないわけではない。受験科目に「英語」はなく、「これで世界に出て、食べていける人間になれるのか」という疑問も残る。小学生時代に時間をかけハードな勉強をするのなら、もう少し国際競争力がつく形の方がいいのではないか、とも感じている。
だが、勉強自体を「苦行だ」と思ったことはない、と江口さんは言う。
「勉強を苦行だと親が感じているのだとしたら、それ自体が残念なことだと思います。昨日わからなかったことが今日はわかる。ゲームは電源を切ってしまえば終わりですが、勉強したことは死なない限りは失われない。『勉強するって楽しいことなんだ』と中学受験を通して学んでほしいと思っています」
前出の矢野さんも、「勉強は苦しく辛いものだと親が感じていると、それは子どもにも伝播する」と話す。
「実際、中学受験を通して学ぶ四教科は、子どもたちの世界を広げてくれるもの。国語のテキストを通して様々な物語に触れ擬似体験をし、社会の仕組みを知ることで時事ニュースも身近に感じられるようになる。学べば学ぶほど、見ている世界の鮮明度は上がる。『勉強を苦行だと思わない』という姿勢が、子どもに接する際の冷静さとゆとりを生んでいるのだと思います」
(古谷ゆう子)