有名塾ゆえ、入室テストに合格するのにも、過去問対策が必要なはず――そんな思いから、希望する塾の入室テストの過去問をフリマアプリで入手。問題集なども購入し、週末に一緒に勉強する生活が始まった。
親が真横について勉強をする。そのことに反発する子も少なくないが、息子は嫌がるそぶりを見せなかった。「親子関係が良好だったことが大きいと思います」と江口さんは言う。
父親と息子の場合、男同士ということでヒートアップしてしまうケースもある。だが、江口さんはまず良好な親子関係をつくったうえで、勉強に並走するという順序があることが奏功しているのだろう。
息子の勉強に対し、怒ることはほとんどない。
「テストの結果には絶対に怒らない。うまくいかなければそのプロセスを注意する」がポリシーであり、成績に一喜一憂することもない。
「テスト中にベストを尽くさない子どもっていないはずなんです。テストの結果が悪かったとして、『なぜなんだ!』と言ったところで何も解決しない。プロセスを改善しない限り、意味がないと思っています」
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表で、25年以上にわたり中学受験指導に携わる矢野耕平さんは、「江口さんのように客観的に見る姿勢こそ、受験生の親に必要なもの」と言う。
「極論を言えば、中学受験はやってもやらなくてもいいもの、という覚めた視点も必要だと思います。合格しなかったからといって、命を取られるわけでもない。勉強を楽しむきっかけになればいい、その延長線上に『合格』がある。肩の力を抜いて考える必要があります」
■勉強することを「苦行」と思ってほしくない
筑駒に合格した江口さんでも、早い時点から成績が良いタイプではなかったという。小学6年になり急激に成績が伸び、追い込みで合格した。そうした経験もあり、息子が5年の時点で高得点を取れなくとも「焦りも感じない」というのだ。江口さんが息子に対し怒るのは、「これはやろうね」と約束したのにもかかわらず、実行していないときだけだ。
「ただ、課題や宿題があまりにも多く、5年生になったら2カ月に一度は怒ってしまっているのは想定外でした(笑)」