「他の企業も初任給を上げてきていますが、歴史ある企業では初任給を上げるとしても限界があります。基本的に年功型の給与体系ですから、もし、初任給を大幅に上げたら、2、3年前に入社した人は一気にやる気をなくしてしまいます。なので、特別な職種をつくったり、別会社を立ち上げたりして特定の人材を厚遇する、というのが伝統的な日本の企業のやり方です」

 賃金格差をつけての大幅な賃金アップといった大胆な賃金体系の見直しはある意味、長期雇用前提のビジネスモデルでないベンチャー企業、新興企業だからこそできるわけだ。

 さらに日本の労働組合は賃上げよりも雇用保障を最重視してきたことが、なかなか賃金上昇につながらなかった大きな原因だという。

「グローバル競争が激しいなかで給料を上げていたら、企業は十分に投資できない。人件費負担が高まれば競争力を失って、結局、自分たちの雇用に跳ね返るということで、日本の労働組合は欧米に比べて賃上げをあまり要求してこなかったんですね。企業の内部留保の大きさがよく指摘されますが、リーマン・ショックや今回のコロナ禍でも日本企業の倒産が比較的少なかったのは内部留保が十分にあったからなんです。なので、組合は本音では内部留保を大きく取り崩してまで賃上げをしないほうがいいと思っている面もある」

 一方、アメリカでは人材の流動性が高く、企業は賃金を上げていかないと、社員が辞めてしまう。そのため、賃金は毎年上がる。

「ヨーロッパには春闘はありませんが、労働組合は数年単位で経営側と賃上げ交渉をします。その結果、賃金が毎年上がっていきます。一方、組合は不採算部門の閉鎖をある程度容認しています。閉鎖を認めないと、経営者は賃金を上げられませんからね。その代わりに組合は解雇された人が他の仕事にしっかりと移れる支援をするように交渉します」

■東大生に見る日本企業離れ

 では、日本はどうか。

 日本企業の場合、リストラ対象の人の再就職を、それを支援する(アウトプレースメント)専門の会社に委託する。組合もそれを黙認してしまう。

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先進国で際立つ「安い国」日本