国内従業員の年収「最大4割引き上げ」を発表した、「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリング
国内従業員の年収「最大4割引き上げ」を発表した、「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリング
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 約40年ぶりの物価高のなか、春闘が始まる。実質賃金は8カ月連続で下がり続けているなか、衣料品店「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリング(以下、ファストリ)は3月から正社員の年収を最大40%引き上げると発表し、大きな反響を呼んでいる。ユニクロの賃上げは他の企業にも広がるのか、労働経済などが専門の日本総研調査部の山田久副理事長に聞いた。

【参考グラフ】20年間で増え続ける年収200万円以下の給与所得者

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「40%という賃上げの数字自体は驚きというか、思い切ったな、という感じを受けましたけれど、ある意味、非常に納得がいくというか、合理的な思考に基づいた決断ではないかと思います」

 山田さんは、そう指摘する。

 この1年、エネルギーや原材料価格の上昇や円安によって物価が高騰しているが、ファストリの賃上げは単に物価高に直面する社員に配慮して行うものではなく、根本的なビジネスモデルの転換の一環に違いないと、山田さんは見る。

「1990年代末から2000年代はじめ、ユニクロは、安い衣料品を売る、というビジネスで業績を急拡大しました。しかし、ユニクロの商品をずっと見てくると、単に安売りをしてきたわけではなく、商品の品質や機能を上げながら値ごろ感を出しています」

 その象徴といえるのが、体から出る水蒸気を利用して発熱する「ヒートテック」の商品だという。

「特に最近の決算を見ると、販売の単価をかなり上げて、数量を減らしています。つまり、世界的にインフレの時代になっていくなかで、コスト削減に主眼を置くのではなく、価値を創造して、売り上げを伸ばすビジネスモデルに転換していく。そのためには人への投資を増やして、社員のモチベーションを上げることが必要だと判断したのではないでしょうか」

 ファストリはユニクロを国内だけでなく、アジアや欧米の国々にも展開している。

「日本は人口減少社会ですから、マーケットのボリュームは次第に縮小していきます。今後、ユニクロのグローバル展開はさらに加速するでしょう。そこで日本と海外で給与水準に差があると、戦略的な人材の移動がスムーズにいかず、事業をうまく展開できない。今回の賃上げの背景にはそんな問題意識もあったと思います」

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なぜ「ユニクロの真似」ができないのか?