米国も早くから気球を見つけていたが、ブリンケン国務長官の訪中直前ということもあり、バイデン大統領の意向で気球の存在についてしばらく非公表のまま、監視を続けていた。だが、やがて米軍のミサイル基地など重要戦略拠点の上空を通ることになり、公表・撃墜の方向にかじを切ったと米メディアは報じている。

 では、今回の気球は何のために飛ばされたのか。それは「偵察衛星ができないことの補完任務」という見方が強い。可能性としては、台湾上空や台湾への軍事介入の拠点となる沖縄・グアムの米軍基地周辺の情報収集が考えられる。遠く離れた米国本土までの情報収集の任務を負っていたというのは少々考えにくい。風任せの気球ではそこまで微妙なコース設定は難しいからだ。

 高高度に展開する偵察衛星によって軍事施設の場所や地形は確認できる。しかし、その地域でのより詳細な風向きや湿度、気温、気象条件などはわからない。そうしたことが気球によって確認できるようになる。最近では無人機による攻撃も主要な軍事オプションとなり、ドローン活用のために現地の気象条件を確認しておくことは確かに重要だ。

 中国側は今回の気球について「気象用だ」との説明を最初から行っている。これもウソではない。ただ、確かに「気象用」でもその目的はといえば、やはり軍事のための気球であることは中国も完全には否定していない。一般的な気象情報ならばすでに各国の気象当局が発表しており、インターネットでいくらでも入手できる。

 一方、今回の気球問題で浮かび上がったのが、米中間で危機管理を行うことができるパイプの細さではないだろうか。今回の気球は、米国本土に入ったという点では米国側の厳しいリアクションを招いたいが、実際のところ、米国に与える安全保障上の脅威がどこまであったかといえば、それほど大きなものではなかっただろう。

 中国側は公式メディアなどで「小題大作(小さな問題をことさら大きくあおっている)」と批判しているのは本音も含まれているはずである。

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米中間の水面下のパイプはほとんどない