TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は天才ギタリスト、ジェフ・ベックさんについて。
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ジェフ・ベックの葬儀の様子をBBCが伝えていた。彼と並んで世界3大ギタリストと呼ばれたジミー・ペイジが弔辞を読み、同じ3大ギタリスト仲間のエリック・クラプトンが参列、デヴィッド・ギルモア、ジョニー・デップらの姿もあった。
孤高のイメージのジェフ・ベックだが、僕の友人が意外な一面を教えてくれた。1975年からロンドンに滞在、UKロックのミュージシャンにシャッターを切り、ラジオで音楽情報を紹介してくれたフォトジャーナリスト、トシ矢嶋さんだ。
ジェフの本を作ることになって、何とか本人に会ってほしいと依頼された矢嶋さんは加藤和彦さんと親しかった。加藤さんのサディスティック・ミカ・バンド『黒船』のプロデューサーがピンク・フロイドも手がけたクリス・トーマス。「そのクリスから(ビートルズの担当だった)ジョージ・マーティンに繋(つな)いでもらい、そこからジェフ・ベックの事務所にたどり着き……」
クリス・トーマス、ピンク・フロイド、ジョージ・マーティン。ロックレジェンドの名前にこちらはたじろぎそうになる。
1978年の秋だった。イングランド南東部のワドハーストに行き、山道をクルマで3分のところに築400年の城がある。ベッドルームは10を数え、庭は100エーカー。
「ジェフならあそこに」と案内されたのはガレージだった。「『ハーイ!』とクルマの下からぬっと顔を出したのがジェフ・ベック。(1930年代のアンティーク・カー)ホットロッドの修理で手がオイルまみれだった。『これじゃあ握手できないな。手を洗ってくる』」
「撮影用にギターを持ってきてくれたのだけど埃(ほこり)は被っているし、弦も張られていなかったし」と矢嶋さんは苦笑交じりに振り返る。収録やライブで使うギターはロンドン市内の倉庫に保管されていた。「使われなくなったギターに目の前で弦を張り、少しばかり弾いてくれ、撮影となりました。ジョージ・マーティンの言葉を思い出した。『ジェフはミュージシャンというよりエンジニア。でも一旦ギターを手にするとギターしかなくなる』」