米国がタリバーンと和平協定を結んだ。これまで米国が支えてきたアフガニスタン政府を排除しての協定は、大統領選挙を前に戦争終結の実績を作りたいトランプ大統領の思惑が透けて見える。一方で米軍撤退後のアフガニスタンでは、現政府の崩壊と、さらなる内戦の可能性も。AERA 2020年3月16日号では、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏がアフガニスタンの今後を予想した。
【写真】米国のカリルザード和平担当特使とタリバーン政治部門トップのバラダル幹部
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アフガニスタンに対する米国の出兵の大義は「テロとの戦い」だった。引き金は2001年9月11日に起きた大規模テロ事件だ。ニューヨークの世界貿易センターとワシントン郊外の国防総省にハイジャックされた旅客機が突入するなどして計2977人(他に犯人19人)が死亡。米国や被害者が出た諸国で報復を求める声が高く、国連安全保障理事会でも武力行使が是認された。
米国はこの事件はイスラム過激組織「アルカイダ」の犯行で、その指導者オサマ・ビンラディンが黒幕とみて、彼が滞在していたアフガニスタンに彼と全てのアルカイダ指導者の引き渡しを求めた。
だが9月21日、同国のタリバーン政府は「証拠がなければ引き渡せない」として米国の最後通牒に応じなかったため、米、英などは「アフガニスタンはテロリストをかくまっている」として10月7日、航空機、巡航ミサイルによる攻撃を行い戦争に突入した。
だが日本の逃亡犯罪人引渡法(53年制定)第2条にも「引渡犯罪に係る行為を行ったことを疑うに足りる相当な理由がないとき」には引き渡してはならない、と定めている。これは国際的に常識だ。当時米国側は証拠を示していなかったから、疑うに足りる理由があるか無いかは判定できず、アフガニスタンの対応にも一理があった。
また9.11テロ事件はアフガニスタン国家が米国を攻撃したわけではない。そこに滞在する外国人が攻撃の首謀者であるとしても、アフガニスタン国家に対する武力攻撃が自衛権行使にあたるか否かは疑問だ。