米国から見捨てられたアフガニスタンのガニ大統領は発言権を確保する最後の切り札として捕虜交換に抵抗している。

 政府はタリバーン兵約5千人を捕虜とし、タリバーンは約1千人の政府軍兵士を捕虜にしているとされる。米国はタリバーンとの協議で捕虜の交換を行うこととし、それをアフガニスタン政府に命じたが、ガニ大統領は拒否し、米国の説得を蹴飛ばし続けている。だがこれは両刃の剣だ。和平協定で政府軍との戦いは自由にできるタリバーンが捕虜奪還を目指してアフガン政府を屈服させようとするかもしれない。少なくとも小競り合いがしばらく続きそうだ。

 タリバーンは本来パキスタン軍情報部の支援で作った組織だけに、インドが今日行っているカシミールのイスラム教徒の弾圧を強めれば、パキスタン軍の別動隊として行動することも考えられる。

 またアフガニスタン人は外敵に対して勇猛に戦う一方、共通の敵がいないときには国内での争いも絶えなかった。人口の約40%のパシュトゥーン人主体のタリバーンが全土を支配することになれば、約30%のタジク人などが反旗を翻すことも起こり得る。

 アフガニスタンでは、米軍撤退後のベトナムのような安定は望み難いと思われる。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2020年3月16日号より抜粋