予備選や党員集会で連勝を重ねてきたバーニー・サンダース上院議員(78)は若者に人気で、特に大学生の支持率は42.3%にも上る。トランプ大統領も学生に人気で19.9%だが、その2倍以上もある(調査機関カレッジ・リアクション調べ)。2016年大統領選挙で、ヒラリー・クリントン候補(当時)が若者層の獲得に苦戦したのは、同年の予備選挙でサンダース氏に投票した若者が、クリントン氏を嫌ったためでもある。
だがサンダース氏はもともと無所属で、「民主社会主義者」を自任する。民主党にとってはつまり「部外者」で「急進過ぎ」という懸念がつきまとっている。若者層の支持は重要ではあるが、社会主義国から逃れてきた移民や中道派の市民は「若者はなぜ社会主義を支持するのか」と首をひねっている。サンダース氏は党内の深刻な分断を生んでおり、「これで本選挙でトランプ氏に打ち勝つことができるのか」という疑念が生まれている。
もう一人、注目の候補者はハーバード大ロースクールの元教授、離婚歴1回、キレのよい発言で知られるエリザベス・ウォーレン上院議員(70)だ。
若者や女性の支持者が多い。トランプ大統領と同世代の70歳ながら、スリムで健康な印象がある。テレビ討論会での言論もシャープで、どこか学校の先生のような印象もある。本選挙でトランプ氏と一騎打ちになった際にも、十分わたり合えるだろう可能性が感じられた。
しかし、彼女の政策はサンダース氏に近い「急進派」。特に彼女の主要政策であるメディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)は、日本の国民皆保険のようなものを目指すが、そのために20兆ドル超の歳出を予測している。その上、数千万人の健康保険保持者が、現在の保険を返上し、彼女のメディケア・フォー・オールに切り替えることになるといい、果たして実現可能なのかという声があがっている。
「もう少し中道なら支持が増えるのに」(元ホワイトハウス上級職モー・ヴェラ氏)という周囲の声をウォーレン氏自身も理解しつつ、それでも急進的な政策を捨てずに突き進んでいるという状況だ。
民主党候補者の顔ぶれを見ていると「帯に短し襷に長し」──という言葉が、頭に浮かぶ。支持者はみな、自分が支持する候補者は「大統領になれる」と信じている。しかし、共和党候補となるトランプ大統領に本当に勝利することができるのか。
有権者の気持ちと共に、米国の目指す民主主義の姿そのものが、揺れている。
(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2020年3月9日号より加筆・修正