東京パラリンピックに向けてトップアスリート向けの義足を開発する一方で、視線はすでに2020年の先にある。一般の義足ユーザーが購入できる安価なスポーツ義足の開発も進めているのだ。
17年、遠藤さんはクラウドファンディングで資金を集め、スポーツ用義足を気軽に試着できる「ギソクの図書館」をつくった。初めて義足で地面を蹴る感触を味わった子どもたちはとてもうれしそうだったが、走る喜びが大きいほど元の場所に義足を戻して帰るその後ろ姿が寂しそうに映った。
カーボン製で軽いスポーツ用義足は1本あたり約20万~60万円。歩行用の義足のような福祉用具への給付金はなく、全額自己負担のため、購入するハードルはとても高い。
そこで遠藤さんは「スポーツ用義足を民主化したい」と、同じ材料を使うが成型方法を変えることで、10万円を切る安価なスポーツ用義足の製作と東京パラリンピック前のプレスリリースを目指している。
「ギソクの図書館で知り合った子どもたちの中には、スポーツ用義足を手に入れても、学校での使用や陸上部の入部を断られたケースもあり、受け皿づくりも必要です。加えて義肢装具士が歩行用の義足を製作するときに走ることを想定してソケット(足の断端を包む部分)を作っていないために、ゆくゆく走りたいと思ったときにソケットに板バネを装着できないことも課題です。安価と言っても、10万円は気軽に買える金額ではない。走りたい子が学校でみんなと走れるよう、自治体などの補助もあったらいい。こうした社会的なハードルも解決していきたい」
義足ランナーの支援は、国内だけにとどまらない。昨年秋にはラオスを訪問し、現地の義肢装具士にスポーツ用義足の装着も可能なソケットの作り方や、実際の装着方法を教えた。ラオスでは今も不発弾が残る地域があり、身体の一部を失ってしまう人も多いという。
「ラオス初の義足アスリートの姿を見て、他の人も走ることをあきらめなくていいと知ることができる。自分がつくったものが社会に浸透し、義足で走ることが日常になっていく。パラリンピックは楽しみだけど、最近は2020年以降を考えるほうがワクワクするんです」
(編集部・深澤友紀)
※AERA 2020年2月24日号