サイボーグ社の競技用義足(左)と一般向けスポーツ用義足。世界最速を目指す一方で、義足で走ることのハードルを下げることにも力を入れる(撮影/写真部・掛祥葉子)
サイボーグ社の競技用義足(左)と一般向けスポーツ用義足。世界最速を目指す一方で、義足で走ることのハードルを下げることにも力を入れる(撮影/写真部・掛祥葉子)
この記事の写真をすべて見る
東京・豊洲に開設した「ギソクの図書館」では1回500円(施設利用料別、要事前予約)でスポーツ用義足の板バネやパーツを気軽に試せる(撮影/写真部・掛祥葉子)
東京・豊洲に開設した「ギソクの図書館」では1回500円(施設利用料別、要事前予約)でスポーツ用義足の板バネやパーツを気軽に試せる(撮影/写真部・掛祥葉子)
サイボーグのビジョンは「すべての人に動く喜びを」。遠藤さんは「テクノロジーの力で障害者と健常者の概念をあいまいにしたい」と語る(撮影/写真部・掛祥葉子)
サイボーグのビジョンは「すべての人に動く喜びを」。遠藤さんは「テクノロジーの力で障害者と健常者の概念をあいまいにしたい」と語る(撮影/写真部・掛祥葉子)

 今年の夏、世界中のパラアスリートが東京に集う。義足エンジニアの遠藤謙は、最先端の技術で世界最速を目指す一方で、誰もが義足で走ることのできる未来も作ろうとしている。AERA 2020年2月24日号から。

【写真】東京・豊洲に開設した「ギソクの図書館」では有料でスポーツ用義足の板バネやパーツを気軽に試せる

*  *  *

「エンジニアとして人をびっくりさせたい」

 義足エンジニアの遠藤謙さん(41)はその言葉通り、私たちの先入観を覆す驚きを次々に見せてくれる。「乙武プロジェクト」もその一つだ。

 米マサチューセッツ工科大学で義足を研究し、帰国後はソニーコンピュータサイエンス研究所に所属しながら、義足開発ベンチャー「サイボーグ(Xiborg)」を立ち上げた。足首や膝部分にモーターを搭載したロボット義足を多くの人に知ってもらうには、生まれつき手足のない乙武洋匡さん(43)に歩いてもらうのが一番だと考えた。

 乙武さんは、歩く際に重要な役割を果たす膝や、歩行のバランスをとるための手もなく、歩いた経験もない。歩行は予想していた以上に難しかったが、2018年11月、ロボット義足をつけた乙武さんは7.3メートルの歩行に成功し、社会をあっと驚かせた。

「テクノロジーがあれば障害はなくなる」というのが、遠藤さんの持論だ。障害が個人ではなく社会の側にあるという「障害の社会モデル」の考えに似ていて、「障害は技術の側にある」。

 例えば、目が悪くてもメガネをかければ不自由がなく生活できる。いまや、メガネが視力の弱い人の補助具というイメージは薄まり、おしゃれ目的でかける人さえいる。補装具である義足も、同じように社会に受け入れられ、あたりまえの風景になることを願っている。

 テクノロジーは、無限の可能性を秘めているという。

「テクノロジーがあれば、損なわれた機能を補うだけでなく、身体能力を拡張できる。人間の体は年を取れば衰えていくけど、義足ならアップデートだって可能。ものづくりによって、どうとでも変わる余地がある」

 遠藤さんには、乙武プロジェクトを通して、あらためて感じたことがある。

次のページ