「一度流行すれば発症者だけ外に出しても無意味で、船の中で感染が広まります。クルーズ船にも検疫にも慣れていない日本のミスでした」(上医師)

 菅義偉官房長官は、10日の会見で「現状においては、(全員の検査は)厳しいものがあると思う」と述べたが、同日、加藤厚労相が全員の検査を検討していることを明らかにした。12日になって、国と国立感染症研究所は、感染の検査を大手臨床検査受託会社エスアールエル(SRL、東京)に依頼。入港後1週間以上経過してから軌道修正を図ろうとしているようだ。

「外部に委託すればすぐにできる検査だったにもかかわらず、判断ミスによって感染を広げたのです」(前出の上医師)

 船内でここまで感染が拡大した理由について、ナビタスクリニック(東京・立川、新宿)の内科医・山本佳奈医師は、コロナウイルス自体の生命力の強さを指摘した。

「新型に限らず、コロナウイルスはドアノブや手すりで平均2時間から9日生き残るという研究があります。インフルエンザウイルスは最大2日といわれますから、大分しぶとい印象です」

 船内は密室のため、接触感染の可能性も高くなる。食事の配膳をする乗務員やドアノブなどを媒介して、ウイルスが広がっていると想定できるという。

 さらに、山本医師は別の懸念を持っている。すでに国内で感染が拡大している可能性だ。

「インフルエンザ検査が陰性だった人のなかに、新型コロナウイルス感染患者もいるかもしれないと思いながら日々診療しています」(山本医師)

 これも国側の対応に起因する懸念だ。現在は自治体判断で検査できるようになったが、しばらく湖北省への渡航・接触歴がある人しか検査が受けられない状況があり、感染者の見逃しが起きた危険がある。

「中国は状況がアップデートされるので現状がまだわかりやすい。日本は感染がどんな規模で起こっているのか確かめることが難しかった。五輪を前に感染者数を増やしたくないのでは、とも勘繰ってしまいます」(同)

(編集部・福井しほ、小田健司)

AERA 2020年2月24日号より抜粋

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