現状の大腸がん検診は、まず便に血が混じっているかを調べる便潜血検査でスクリーニングをし、異常が見つかれば大腸内視鏡検査に進むという流れだ。便潜血検査の有効性は非常に高いが、精度の点で、痔の場合のように出血していれば陽性判定が出てしまう。その結果、「以前、便潜血で陽性が出たが、調べたら痔だった。今回もまた同じだろう」など油断してしまい、精密検査に進まない人が少なくない。そこで出血とは別の要因に注目しようというのがコリバクチン検査だ。
コリバクチンは大腸がんの発生に関与する遺伝毒性物質。コリバクチン産生菌がいると大腸で炎症が起きた際にコリバクチンを分泌、DNAを損傷させ、細胞のがん化につながることがわかっている。ピロリ菌が胃がんリスクを高めることは広く知られるが、コリバクチン産生菌も大腸がん患者の7割近くから見つかるという。昨年、静岡県立大の渡辺賢二教授が、コリバクチン産生菌を検出する試薬を世界で初めて開発した。
「この検査の意義は、便潜血や内視鏡検査が、大腸がんになってからしか検出できないのに対し、将来大腸がんになるリスクを検出できる点にある」(アデノプリベントの瀧本陽介社長)
検査は便をとるだけ。価格は医療機関によって違うが6千円前後。すでに健康診断のオプション検査として全国の健診施設などで導入が始まっており、今後5年間で300万人の検査実施を目標としている。(編集部・石臥薫子)
◯きむら・けんじろう/神戸大学数理・データサイエンスセンター教授。工学博士。17年、第1回日本医療研究開発大賞受賞
◯なかやま・とみお/大阪国際がんセンターを経て、2018年から国立がん研究センター「社会と健康研究センター」部長
※AERA 2020年2月10日号より抜粋