医療的ケア児は「乗車中の安全を確保できない」としてスクールバスに乗れず、学校から校内でも付き添うよう求められた保護者は、教室の隅や別室で何時間も待機させられるケースが少なくない。多くは就労をあきらめ、経済的不安や身体的負担を抱える。

 子どもにとっても、親が体調を崩すと登校できなかったり、親の事情で通学できる日数が限られたりする問題がある。

 全国医療的ケア児者支援協議会親の部会部会長の小林正幸さんは「子どもに教育の場をしっかりと用意してあげるのは、大人の責任です」と訴える。

 本人や家族が通学を希望しても、「教育を受ける権利」が十分に保障されていない子どもたちがいる。そんな中、文科省は19年3月、都道府県の教育委員会などに、学校での保護者の付き添いは「真に必要と考えられる場合に限るよう努めるべきである」とする新たな通知を出した。

 東京都はそれに先立ち、18年9月から医療的ケアの必要な児童生徒のための専用通学車両を運行。20年度からは人工呼吸器を使う子どもも態勢の整ったところから順次保護者の付き添いなしで学校に通えるようにする。大阪府でも20年度から、看護師が同乗する介護タクシーで通学できる制度を実施する。

 国の通知を受けて全国で看護師配置の予算化が進められ、付き添いなしに通える制度も作られ始めた。ただ、肝心の現場では医療的ケア児の受け入れが進んでいるとは言いがたい。

「学校が『医療』という言葉に過度な拒否感があり、これまで実施したことのない医療的ケアをなかなか受け入れない。学校や自治体ごとに定着したローカルルールも壁になっている」

 そう指摘するのは、元特別支援学校教諭で、学校での医療的ケアの現状に詳しい下川和洋さん(NPO法人地域ケアさぽーと研究所理事)だ。新たな通知よりも古いルールが優先されている現状がある。

 また、学校現場で教員と看護師の連携がうまくいっていないことを理由に挙げる声もある。大阪府内の訪問看護ステーションで管理職を務める看護師の西田仁美さんはこう話す。

「子どもたちは体調が良くなければ教育を受けられない。そこを担う学校看護師も立派な教育スタッフの一員だと思いますが、ケアを軽視し、ケア会議などにも参加させない学校もある。そうした意識を変え、医療も教育も福祉もワンチームになることが必要だと思います」

(編集部・深澤友紀)

AERA 2020年2月10日号より抜粋