第2次大戦がテーマの映画は多いが、10歳の少年と架空のヒトラーの友情を軸にした映画は前例がない。コメディー俳優として経験も積むワイティティ監督のヒトラーは、子どものように跳ねたり踊ったり、とまどう人もいるだろう。そして画面の色調も鮮やかで、スカーレット・ヨハンソンが演じるジョジョの母も戦中なのにファッショナブルだ。

「僕は現実に近いヒトラーを演じるつもりは毛頭なかった。ナチス・ドイツがプロパガンダに鮮やかな色を使ったのとは対照的に、内部では腐敗している点を描きたかったんだ。敗戦前、ドイツ人は毎日が人生の最後の日であると感じ、毎日ドレスアップして出かけたいと感じた。食料が不足し、国全体が貧困になった。だから国民は勇敢な顔を装ったんだ。リサーチして分かった真実だよ」

 第2次大戦勃発から80年。ひとつの節目にあたる今、このテーマについて再考する機会を持つのはよいことだと、監督は語る。

◎「ジョジョ・ラビット」
第2次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョは次第にユダヤ人少女に惹かれていく。1月17日から全国公開

■もう1本おすすめDVD「ヒトラーへの285枚の葉書」

 ハンス・ファラダの小説『ベルリンに一人死す』(1946年)が原作。戦争映画といえば戦場が舞台の映画が主流だが、市民の視点から戦争を描いた映画は、設定が日常のせいか逆に人道主義に訴えかける名作が多い。本作もそんな一本。

 アンナ(エマ・トンプソン)とオットー(ブレンダン・グリーソン)の夫婦は、ベルリンのアパートで静かに暮らす愛国的な夫婦だ。一人息子のハンス(ルイス・ホフマン)が戦死し、暗い毎日の唯一の心のよりどころを失った二人。悲しみは、いつしか戦争への怒り、憎しみへと変わる。ナチス・ドイツに抵抗するため、二人は反戦のメッセージを記した絵葉書をベルリンのあちこちに置き去るという行動を起こした……。

 ファラダは裕福な家庭に育ったが、薬物依存などの理由から生活に困窮することもあり、一時はナチスのプロパガンダ小説を書き批判された。そんな彼が死の直前に執筆した名作の映画化。同様に、チロル地方ロケで名もなきオーストリアの反戦主義者の勇敢な行動をテーマにしたテレンス・マリック監督の新作「名もなき生涯」が2月に劇場公開となるので、それもお薦めだ。

◎「ヒトラーへの285枚の葉書」
発売元:ニューセレクト 販売元:アルバトロス
価格:3800円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2020年1月20日号