事態がここまで深刻化したのは、韓国大統領府と同様、日本の首相官邸にも「外交よりも政権浮揚」「外務省は下働き」という意識が強すぎたからだ。19年7月の韓国向け輸出管理規制措置の強化は、官邸が主導した結果だったが、「外交の懸案を経済にまで広げた」という国際的な批判を招いた。
韓国を叩(たた)くだけ叩いて、仕事は全部外務省に丸投げしたため、首相官邸と韓国大統領府との間に信頼関係を築けなかった。ようやく、官邸は今回、文喜相(ムンヒサン)法案に期待をかける空気は作ったが、大統領府を動かすまでには至らなかった。
そして、2020年の日韓関係は更に厳しい環境に置かれることになる。
まず、「政権浮揚」という官邸と大統領府が一番関心のある問題に直面する。韓国は4月に総選挙を控える。安倍政権の支持率が落ち気味のなか、東京夏季五輪後には総選挙がある可能性もある。内政に気を取られ、外交で妥協する余地はさらに狭まるだろう。
北朝鮮情勢も不穏だ。北朝鮮が期限とした19年末までに、米朝関係は劇的な進展を見せなかった。20年には北朝鮮を巡る安全保障環境は確実に悪化する。米国が日韓それぞれに迫っている防衛費分担金の大幅増や中距離ミサイルの配備問題も控えている。日韓関係の悪化を利用しようとする中ロの動きも一層激しさを増すだろう。
日韓が争う時間を与えてくれるほど、世界は暇ではない。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)
※AERA 2020年1月13日号より抜粋