史上最悪と言われる日韓関係の中、1年3カ月ぶりに行われた日韓首脳会談。目立った進展を見せることなく、関係改善とはいかなかった。AERA 2020年1月13日号では、今回の会談の意義と今年の展望を朝日新聞前ソウル支局長が読み解く。
【写真】笑みを浮かべながら握手を交わす文在寅大統領と安倍晋三首相
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1年3カ月ぶりの首脳会談で得られたこともある。
会談に先立ち、韓国政府関係者がひそかに日本政府に頼み事をした。
「我々は、日本政府が徴用工問題で一歩も退かない姿勢であることはわかっている。だが、この事態を文大統領が理解していないかもしれない。ぜひ、安倍首相から直接、文氏に日本の立場を説明してほしい」
そしてこの韓国政府関係者はこうも伝えた。
「文大統領は決して正しい判断ができない人ではない。正確な情報が本人の耳に届けば、何とかなるかもしれない」
これが何を意味するのか。絶対的な権力者である韓国大統領は日常、側近たちに囲まれて執務している。なかなか外部と直接やり取りする機会がない。日韓関係筋は「政権浮揚しか頭にない側近たちが、日韓関係でも楽観的なことばかり大統領に伝えている可能性があるからだ」と語る。
そして、安倍首相は前述した通り、徴用工問題で一歩も退かない姿勢を示し、「韓国側の責任で解決してほしい」と訴えた。
この訴えは文氏に届いたのだろうか。
別の関係筋によれば、文氏は首脳会談のなかで「徴用工判決問題は韓日関係にとって重大な問題である」と語った。文氏も、事態が深刻な状況にあるという点は理解しているわけだ。そして、韓国政府の望み通り、安倍首相は徴用工について厳しい立場を直接、文大統領に伝えた。
ただ、現金化は20年の前半にも行われる可能性がある。時間はそれほど残されていない。文氏は首脳会談で「徴用工判決の原告や被告ら関係者全員が納得する答えを見つけなければいけない」と語ったというが、具体策には言及しなかった。
日本側も、この状況について「ようやく韓国も目が覚めたか」と高笑いしている場合ではない。