

時間と距離を超えて、遠く離れた実家に訪問できる時代がやってくる。まる瞬間移動したような感覚で実家にいる親とのコミュニケーションも夢ではない。AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号では、アバターロボットの最前線を紹介する。
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「ちょっとママ……手を切ったりしないでよー」
リンゴの皮をむく84歳の母を見て、娘の私(福光)は思わずそう叫んでしまった。ただしその光景を見ていたのは別の場所。航空会社のANAホールディングスが開発したアバター(分身)ロボット「newme(ニューミー)」のカメラを介してだ。
ロボットにはタブレットが付いていて、操作する人の顔が映る仕組み。一方、タブレットのカメラはロボットが見る風景を映し、操作する人は瞬間移動をしたような体験ができる。
このプロジェクトは「アバターイン(アバターにログインする意)」と呼ばれ、会議室に置かれたアバターで会議に出席したり、百貨店に置かれたアバターで買い物をしたり、すでに実用化も進んでいる。次に目指す瞬間移動先。それが遠く離れた家族のいる場所だ。
実家のデジタル化。まずはその近未来形から紹介していこう。
「1歳半の私の子も、アメリカにいる私の親が操作するアバターと毎日のように遊んでいます。アバターを『グランパ!』と呼んで、ハグしたりもしています」
ANAホールディングスのアバター準備室・ディレクターの梶谷ケビンさん(35)は話す。実家にアバターを置けば、見守りの役割も担う。子どもは好きなときに手元のパソコンからログインして、実家を訪問できる。
「ほとんどの人が実家の鍵って持ってますよね。そこで基本的に実家側の承認なしで、子どもはいつでもアバターにログインできるようにしています」(梶谷さん)
実際に実家を訪ねる感覚で、子どもが「おーい」と叫びながら親がいる場所を捜して、アバターが家の中をスーッ、スーッと動き回る。これまでのAIやテクノロジーは人と置き換えようとするものが多かったが、「こちらは、人の力を拡張するもの」(同)。そんな人と近いものを感じるロボットだけに、自然なコミュニケーションも可能になる。たまにはアバターで実家に登場し、親とアバターごしに一緒に食事。そんな日も遠くない。(ライター・福光恵)
※AERA 2019年12月30日号-2020年1月6日合併号より抜粋