日本の性犯罪被害者を取り巻く状況は深刻だ。今春には、性暴力をめぐって、全国で無罪判決が相次いだ。実の娘に性的虐待をした父親が、娘の抵抗が「著しく困難だったとは言えない」として無罪になった判決もあった。そうしたなか今回の判決は、同様の被害に遭いながらも「なかったこと」にされてきた人たちを励ます結果となった。
伊藤さんは、こう呼びかけた。
「自分の真実を信じてほしい。私もそれを貫いて今日の結果がある」
性犯罪被害に遭った時、裁判で勝訴を勝ち取るポイントについて、前出の亀石弁護士は「いかに客観的な事実を集められるかにかかっている」と語る。
判決では、伊藤さんは被害に遭った後、産婦人科を受診しアフターピルの処方を受け、友人2人と警察署に相談したことなどが、「性行為は伊藤さんの意思に反していた」と認定されるカギとなった。
「性犯罪は、通常密室で起きるため、当事者の認識や言い分が食い違うことが多く、どちらの当事者の言い分が信用できるかが問題になる。それに比べて、動かしがたい客観的な事実の方が推認力は高い」(亀石弁護士)
20年は刑法の見直しがある。今の刑法では、強制性交罪などの成立には、被害者の抵抗が「著しく困難」なほどの「暴行・脅迫」などが必要要件だと解釈されている。被害者や支援団体からは、暴行・脅迫要件を撤廃し、「相手の同意がない行為はすべて罰するべき」という意見が出ている。一方、同意の有無だけを要件にすると、冤罪が増える可能性を危惧する声もある。
前出の西廣弁護士は言う。
「同意なき性交は当然、犯罪だという社会にしなければいけない。性被害者の声をもっと聞き、議論を広める必要があります」(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年12月30日号-2020年1月6日合併号
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