時給制のアルバイトの場合、基本的には時給がそのまま残業代の「単価」となり、それに割増率をかけ、残業時間に応じた残業代を支払うことになる。ただ、時給以外に月ごとの手当がある場合は、その額を含めて「本来の賃金」とするため、手当の額を月の平均労働時間で割り、時給に合算したものを「単価」にしなければならない。

 セブンは、休まず出勤した場合の「精勤手当」と、リーダー格に払われる「職責手当」の二つを、法令通りに合算していなかった。そのため、本来より少ない残業代しか支払われていなかったという。

 セブンがこうした手当を導入したのは70年代以降。01年、手当分が残業代に合算されていないことが労働基準監督署から指摘され、二つの手当を残業代の単価に合算するようシステムを変更した。手当を考慮しなければいけないのは月給制の従業員でも同じで、01 年以前は月給制にも未払いがあった。

 セブン本部はこの時、法令違反があったことを公表していない。それだけでなく、法令通りにシステムを変更していなかったこともわかった。

 本来、時給と手当分を合算したものを「単価」とし、それに1.25倍の割増率をかけなければいけないのに、セブン本部は時給と手当分を別々に計算し、手当分は0.25倍の計算で支払っていたのだ。

 精勤手当と職責手当の合計は3千円。月の労働時間が100時間の場合、1.25倍で計算すると1時間当たり37.5円が残業代として上乗せされるはずだ。これを0.25倍で計算すると、7.5円にしかならない。10時間残業したとすると、300円の差額が出てしまう。

 こうした差額を、データが残っている範囲で積み上げた結果が4億9千万円だった。セブンは会見で「数字を誤った」と繰り返したが、合算して割増率をかけるのが法令に定められたルールだ。

 手当分をきちんと計算しない違反はセブンに限らないという見方がある。『残業代請求の理論と実務』の著書がある渡辺輝人弁護士は「時給制の従業員の残業代で、手当分をきちんと計算していないことは多い」と指摘する。

 その理由は技術的な難しさだ。「月給制の場合、年間の総労働時間をもとに単価を計算できる。ところが時給制の場合はシフト制で働いていることが多いので総労働時間が事前に定まっておらず、月の労働時間はさまざま。短期間でやめることもあるので、計算が難しい」。ただ、「1.25倍とすべきところを0.25倍にしたのは理解できない」と話す。

「残業代を法令通りに払っていないことは、大企業でも珍しくない」というのは古川景一弁護士だ。

「プログラムミスや計算ミスは結構ある。有名企業で数十億円支払った例もある。表面化しないだけだ」

【セブンのイメージダウン必至か…本部の残業代未払いの重大性】へつづく

(朝日新聞編集委員・澤路毅彦)

AERA 2019年12月23日号より抜粋