140種類あれば、日本人の9割に拒絶反応が起きにくいiPS細胞がそろうことになると試算された。この構想でストック事業は始まり、国も10年間は支援することになった。昨年度は13億円、これまでに計90億円以上が投じられてきた。

 しかし、構想は大きく変遷している。一番の問題は多くの型の提供者を探すのが難航していることで、すでに日本人の4割をカバーできる4種類まで作製したが、それ以上に増やすことはいったんやめ、140種類そろえる方針を取り下げた。最初に出来上がった4種類と、拒絶反応が起きにくいようゲノム編集した6種類のiPS細胞で日本人のほぼ全員をカバーする方針に転換している。

 また、大学の研究所の一部門という形でストック事業を実施してきたが、京大は公益財団法人という形で独立させることにした。事業を将来にわたり、安定して継続させるねらいがあった。

 公益財団法人化の手続きと前後して、これまで国の全面支援を受けてきた事業の雲行きが怪しくなってきた。

 今年8月上旬、文部科学省で有識者会議「幹細胞・再生医学戦略作業部会」が開かれ、山中さんも参加。iPS細胞を使った再生医療を実現するためのプログラムの評価と、今後の方針が議題だった。

 会議では、iPS細胞ストック事業について「基本的な技術が確立し、臨床応用に不可欠な基盤だ」との意見がまとまった。山中さんが目指す、事業の公益財団法人化の方針も認められ、ストック事業を含むプログラム全体を「継続する」となり、ストック事業に追い風が吹く内容のはずだった。

 にもかかわらず、会議後に取材に応じた山中さんの表情は暗かった。「私たちの説明が不十分。iPS細胞研究に予算が偏重しているのではないかというお叱りもある」と言葉少なだった。公益財団法人化の手続きと前後して、政府内で予算削減の議論が出始めたことが背景にあったとみられる。

 複数の関係者によると、会議の直後、医療政策を担う内閣官房の幹部らが京大を訪れ、来年度からiPS細胞ストック事業に対する国の支援を打ち切る可能性を山中さんに伝えたという。

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