韓流ブームはこれまでもあった。03年ごろから中高年女性を魅了した「冬のソナタ」を発端にした第1次ブーム。10年ごろからは「KARA」「少女時代」を始めとしたK-POPが席巻、幅広い世代を巻き込んだ第2次ブームに。第3次の波が訪れたのは3年ほど前から。中心にいるのは、主に10~20代の女性だ。

「日本一新大久保に詳しい女子大生」を自称するマーケター、もーちぃさん(20)は、この地に住んで10年以上。

「第1次ブームの頃より街に来る人は増えました。お母さん世代が5千円の化粧水を買っていたのに対して、いまの女の子は500円のリップ一つを買うのが楽しみなんです」

 韓国をイメージして何色が思い浮かぶだろうか。国旗の青? サッカーの赤? 毎月、若い女性150人ほどに独自の調査をしているもーちぃさんは言う。

「10~20代の女の子が思い浮かべるのは、圧倒的にピンクです。『かわいい』象徴である色をイメージさせる国なんです」

 韓国の若者文化に詳しいSNSプランナーでライターの飯塚みちかさん(28)もこう話す。

「ピンクといっても、日本の大人が聞いてイメージする典型的な色じゃない。イケてるのは、黄色みのあるピーチピンクです」

 取材で訪れた新大久保のカフェの壁紙もピーチピンク。壁際には、ペットボトルと缶をコラボレーションした個性的なグッズが並ぶ。いま流行(はや)っているのは、キラキラしたアイスの形をしたリップなど、SNS映えもしそうなアイテムで、日本の「KAWAII」とはまた別種の「かわいい」商品だ。

「韓国のメーカーは、この感覚を分かっていると思いますね。しかも安い。『かわいい』のなかにもジャンルがあって、ギャル系、清楚系がある。間違いなく韓国系もあります」(飯塚さん)

 ブームが「独自ワールド」で起きている理由について、同志社女子大学の大西秀之教授(人類学)はこう解説する。スマホは検索した履歴によって、表示されるサイトを変える。韓国好きな子と嫌韓を主張する人とをAI(人工知能)が分断している、と。

「隣の人とは、もはや違う世界を生きているのです。40代以上には、歴史や政治を背景とした韓国への上から目線がある。若者にはそれがない。特別な意識を持たず、よくも悪くも、たまたま好きになった」

 歴史や政治に無知なのは、誇れることではない。しかし、前提とする知識が「単なる偏見やヘイト」の類いなら、白紙の方がよほど健全ではないか。

 大西教授は言う。

「若い世代には、かつてのような韓国に対する優越感や上下意識が希薄になっています。ただ、日韓の架け橋になるには、もっと深く互いのことを知る必要があると思います」

(ライター・井上有紀子)

AERA 2019年12月9日号