こうした通訳・翻訳業務に主に携わるのが、結婚移民者である。政府は各地で無償の通訳・翻訳教育講座を開講している。結婚移民者の活用は、各国語の韓国人通訳者を一から養成するよりもコストがかからずに済み、就労支援にもつながるため合理的である。高度な専門知識を要する医療通訳者や法廷通訳者を養成するための講座もある。税徴収・滞納整理員として、結婚移民者を雇用している例もある。たとえば、税金を滞納しているベトナム人の滞納者には、ベトナム出身の結婚移民者が徴税人として連絡し、自国語で納税するよう促している。
このように結婚移民者は、広範囲の外国人支援策の重要な支え手となっている。つまり、外国人のための多言語対応を手厚くするほど、結婚移民者の雇用の創出につながる好循環となっているともいえる。 結婚移民者への集中的な韓国語教育の提供および活用という政策は、日本にはない発想である。
日本を上回る勢いで少子高齢化が進み、人口減が始まった韓国では、日本と同様、女性の労働力化を進めることで労働力不足を補おうとしている。結婚移民女性のように、合法的な滞在と自由な就労が許可されている人材を、うまく活用していこうというのもそのためである。さらに、結婚移民者には、条件付きで重国籍を認めているため、帰化して韓国籍になる者も多い。
■単純労働者の受け入れから20年
非熟練労働者を受け入れる日本の在留資格「特定技能」に似た制度に、韓国の「雇用許可制」がある。韓国は雇用許可制を2004年に導入した。2018年までに累計70万人以上が制度を利用して働いた。
韓国南部の光州外国人労働者支援センター。無料の韓国語講座を受講していたウズベキスタン人のマンスーリさん(25)は来韓2ヶ月、現代系列の冷蔵庫の製造工場で働く。給与は母国の3倍の月額200万ウォン(20万円)で、ほとんど母国の両親に仕送りしている。父親も10年ほど前、雇用許可制を利用して韓国で働き、帰国後にはそのお金で事業を興した。マンスーリさんは「お金を貯めて、ソウル大でITビジネスを勉強したい」と夢を膨らませる。