タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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11月19日は「国際男性デー」でした。男性と男子の健康に対する意識を高め、ジェンダー平等について考える日です。最近は、「男はこうでなくてはならない」という社会的な圧力に苦しむ男性の心情が語られるようになってきました。そうした生きづらさは特に若い世代に顕著なようです。10代の息子たちの親としては、彼らがジェンダーの押し付けに苦しむことなく、伸び伸びと生きられる社会であってほしいです。
日本の広告を見ていると、男性の欲望が単純化されていることが気になります。購買意欲をそそるために、商品が性的な欲望と安易に結び付けられているものが少なくありません。ビジネスを効率化するあるサービスの広告では、業績に悩む熟年ビジネスマンの前にネズミに扮(ふん)した若い女性が現れ、踊りながら“チュー”を連呼。“おじさん+女子+チュー”で印象づける手法は正直言って気持ち悪いです。男性向けの衣類柔軟剤の広告では、若い女性がセックスの誘いを連想させるセリフを言い、オフィスで間近に顔を寄せてきたり、ブラウスの胸元を雨に濡らして走って傘に入ってくるシーンが描かれます。あるビールの広告は、男性ビジネスマンに出張先で知り合った女性との性的関係を連想させるような内容で炎上しました。
なぜ商品の魅力ではなく、性的なイメージで男性の関心を引こうとするのか。男性に「欲しい」と思わせるには「エロい」と思わせればいいという発想は本当に根深いです。男はいつも発情しているものと言わんばかりの売り込みは、あまりにも時代遅れ。こうした「男らしさはエロ(女)と出世」というあおりをやめない限り、日本のジェンダー平等の実現は遠いでしょう。人を単なる性的存在として扱う習慣がなくなれば、男性も女性ももっと生きやすくなるはずです。
※AERA 2019年12月2日号