
『僕の人生には事件が起きない』は、お笑いコンビ「ハライチ」のボケ担当でネタも作っている岩井さん初の著書。日常のささいな出来事を独特な視点で切り取った25編のエッセー集だ。著者の岩井さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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初めての著書の中で「30代、独身一人暮らし、相方の陰に隠れがちなお笑い芸人」と自らを紹介する岩井勇気さん(33)。「小説新潮」などの連載をまとめたこのエッセー集には、テレビ番組の裏側や芸能人ならではの話はない。庭の木が枯れた、あんかけラーメンのスープを水筒に入れて持ち歩いた、といった日常がシニカルな視点で描かれている。
「すごい出来事って半年に1回ぐらいしか起きないじゃないですか。でも、ラジオのレギュラー番組では相方の澤部佑とその週に起きたことを話さないといけない。何でもない日常を面白がれる能力を身につけるしかないんですよ」
テレビでは「事件級」のエピソードしか話せないが、ラジオや文章ではささいな出来事を面白く語ることができる。
「その意味でテレビでは絶対言えないことを書いてます」
驚くのは、小説をほとんど読んだことがなく、まとまった文章を書くのも初めてということだ。又吉直樹さんにもらった太宰治『人間失格』は1ページで挫折。その代わりマンガとアニメには詳しい。
今回は編集者に声をかけられ、自分の思いを言語化できるようになりたくて書くことに挑戦した。
「バラバラの部品をとりあえず組み立てた、ではなくて、これめっちゃよくできたな、もう手をつけないでいい、となれば残りの部品を捨てられる。そういう文章が書けたときがいちばん気持ちいい」
お笑いの仕事で忙しいときに原稿の締め切りがくると、「オレ、エッセイストじゃねえっつうの」と突っ込みたくなる。休日に家でパソコンを開き、コンビニのパンをかじって原稿に集中する。
「休みなのに何やってんだろう、澤部は宿題ないんだよな、と思うことはありますね」