日本がモデルとするシンガポールでは、IR設置(10年)により、外国人旅行者が968万人(09年)から1510万人(14年)に増え、旅行消費額も1兆円から1.86兆円に増えた。中でもエンタメ関連の支出が158億円から4586億円に急増した。

 IR施設は、カジノの高い収益性を生かし、公的な役割は強いものの収益性が低い国際会議場などを民間の資本で運営するところに狙いがある。国際会議の開催件数をアジアで見ると、東京は269件で、大型MICE施設を持つシンガポール(877件)やソウル(688件)を大きく下回る。

 しかし、IRという仕組みそのものにも課題がある。静岡大学の鳥畑与一教授(金融論)は、こう話す。

「カジノ自体の誘客力は高くはありません。IRとは、カジノ以外の施設にカジノの儲けをコンプ(還元)して客を呼び、最終的にはカジノに誘導して儲けるビジネスモデルです」

 どういうことなのか。例えば、ラスベガスへの観光客のうち、ギャンブル目的はリピーターで9%、初めての客では1%と高くない。しかし、滞在中にギャンブルをした人の割合は74%と高い(LasVegas Visitor Profile Study 2018)。鳥畑教授は言う。

「ラスベガスではカジノの儲けの3割前後をコンプに充てて、集客を行っています。そのため、地域企業はカジノの儲けを使って低料金で誘客するIRのホテルと不平等な競争を強いられ、疲弊します。IRのなかに人を閉じ込め、グランドキャニオンなど周辺観光比率も2割以下です」

(フリーランス記者・澤田晃宏)

AERA 2019年10月28日号より抜粋