2児の母で電動車いすに乗る伊是名夏子さん(37)は、レゴブロック好きの息子がノンステップバスと車いす人形が入ったレゴブロックセットを見つけたとき、「あ、私だ」とうれしくなったという。
「車いすが主人公というわけではなく、たくさんの人形の中に車いすの人形もある。そこが自然でいいなと思いました」
神奈川県総合リハビリテーションセンターの主任研究員である沖川悦三さんは、20年以上前から世界中の車いすフィギュアを集めている。225種類にのぼるコレクションの大半は海外製で、ネットを通じて購入するなど、苦心して集めたものだ。
「車いすに乗った人形が店頭で一般向けに売られる光景は本当にすごいことです」
沖川さんは、車いすバービーの発売に時代の変化を感じたという。実はバービーシリーズでは、車いすに乗ったバービーの友達「ベッキー」が97年に発売されたことがある。だが、ベッキーの乗る車いすがバービーハウスに入らないなどの問題があった。ベッキーは公的機関の玄関などに置かれているような備品用の車いすに乗っていたが、車いすバービーには背後から車いすを押すグリップがついておらず、介助を前提としない自分の力で漕ぎやすい車いすに乗っている。
「障害のある人に対する捉え方が、より自立した、アクティブなものに変わってきたのでしょう。来年の東京パラリンピックを通じて、日本における印象もさらに変わっていくかもしれません」(沖川さん)
国内の玩具メーカーにおいては、障害者を想定した車いすのおもちゃはまだ見あたらない。「シルバニアファミリー」には車いすがあるが、「ナースセット」など、病人やけが人を想定したものだ。だが、鉄道玩具「プラレール」の駅に点字ブロックが設置されるなど、おもちゃの世界にも少しずつ多様性が映し出されてきている。
障害理解に詳しい筑波大学の徳田克己教授は、こうした動きを歓迎する。
「おもちゃの世界では長年、障害者がいないことにされてきた。やっと出てきたか、という感覚です」